活動実績報告


植物生態学講演会[8月28日 森林観察学習部会]

〜植物達のあの手この手の驚くような知恵を学ぼう〜
日  時 8月28日(土)13:30〜15:30
場  所 ちの地区コミュニティーセンター 第1会議室
講  師 多田 多恵子さん(理学博士)
参 加 者 74名 (うち会員20名)
多田多恵子さんを招いての講演会が74名(うち会員20名)の参加で行われました。暑い日々が続いている中、空調がない、駐車場が分散している等の難問を抱えながらの開催でしたが、皆さん熱心に「森に生きる植物たちの知恵」を学びました。おまけに、先日話題となったスマトラオオコンニャク(ショクダイオオコンニャク)の写真も披露され、充実した講演会になりました。
20100828講演会 20100828講演会

講演概要

森に生きる植物たちの知恵
講演資料より抜粋
緑に包まれた森の中。林床の植物たちはどのようにして生きているのだろうか。
植物は、水と光と栄養塩類を吸収して生活する。これらの資源は有限なので、植物の間には必然的に競争が生じる。 植物の行き方の方針、言いかえれば生きる戦略は、これらの資源をどのようにして得るか 、によって決まってくる。競争や環境の厳しさとにらめっこしながら。
林床植物の光獲得戦略
林床植物の行き方は、大きく三つの戦略にわけられる。光をめぐる林床植物の戦略
夏緑多年草 光を得る工夫をこらす。
 例 ウバユリ
葉を平たく、一層に広げる。木漏れ日を受け止める工夫。春から秋まで保つしっかりした葉。
常緑多年草 葉を大事につかうスローライフ
 例 ジャノヒゲ
冬の寒さに耐える葉、厚くて長持ちする葉(その代わりコストはかかる)、ゆっくりした成長(スローライフの人生)。
長持ちする葉を作って、大切に使いまわす。リサイクル重視、いちばん「ごみ」のでない行き方だ。(江戸時代の日本人はこうだった)
スプリング・エフェメラル 光が豊富な時期を狙った「すきま戦略」
はかなく頼りなげな「春の妖精たち」。
まだ寒いうちに目を覚まし、林の木々が葉を広げる頃にはもう実を結び休眠してしまう。
このような生き方を選択した植物は、科を問わず、ひろくみられる。
林床で風も通りにくいので、風媒花ではなく、虫媒花であり、虫をめぐる競争が激しいので、花びらをおおきく広げて競って呼び込む。
 例 カタクリ
春先の明るい陽光を利用、競争もないから丈を高くする必要もない。早いスタートダッシュ、地下茎や球根の蓄積が必要で、1〜2カ月の短い地上生活
林床植物に見られる葉の工夫
  光を受ける位置にある葉は厚く硬い陽葉となり、葉緑体料も多く光飽和点も高い
陰にある葉は、薄くて大きな陰葉となり、緑は浅く、すぐに光飽和にしてしまう。
  林床の植物たちは、一枚一枚の葉に工夫を凝らす。
林床には、斑入りの葉をつける植物が多い。どうしてなのだろう? 葉の裏が赤い植物のしばしばみられる。どうしてなのだろう?解明されてはいない。
  薄暗い林床から明るい樹上へと、成長に伴って生活場所を変える植物もある。こうした植物は、どんな葉をつけているのだろう?
テイカカズラの場合、全く違う葉をつけている。
菌類との関わり
  常緑照葉樹林の林床はとても暗い。林床植物もほとんど見られない。そんな常緑照葉樹林の下に平気で生える植物がいる。
  タシロランは菜箸を立てたような茎は真っ白で、どこにも葉をつけていない。じつは、タシロランは緑葉を持たない「腐生植物」なのだ。
タシロランの実。粉のようなものがタネだ。タシロランのタネは植物の中でも最小の部類。
タネは長さ0.2mm、ほこりよりも軽い。最初から菌類に頼るので、お弁当がいらないのだ。
  ギンリョウソウも腐生植物。ギンリョウソウの根。菌類に囲まれている。交じっている細い根は、菌類と共生している周りの樹木の根だ。
ギンリョウソウは菌類から一方的に利益を得ている。共生ではなく、寄生している関係だ。菌寄生植物、といったほうが実情を表している。
ギンリョウソウの実の断面。白い果肉の間に、ごく小さな種子がすじ場に多数並んでいる。
  森の植物たち、特に樹木は、その大半が多かれ少なかれ、菌類と共生関係にある。根を掘ってみると、菌類の菌糸がまとわりついている。これを菌根という。
たとえば、マツタケ菌はマツの菌根菌だ。
森の植物の繁殖戦略
  大きな樹木は、風にくるくる回るタネを飛ばしたり、鳥や動物が食べる実を作って、運ばせている。
草や低木といった林床植物は、あまり風には頼れない。林床植物の種子散布を見てみよう。
種子の生活形と種子散布の方法は、お互いに関連している。
  動物散布
モミジイチゴの実は甘くておいしい。鳥が食べると同時に、けものたちもタネを運ぶ。
  アリ散布
カタクリの種子はアリ散布である。林床にはアリ散布種子が目だって多い。
カタクリの場合は、白いエライオゾームの部分だけでなく、茶色い本体の表面にもアリを誘う物質が仕込まれている。
エライオゾームをつけてアリ散布の他の例 ミヤマキケマン、シロバナエンレイソウ、ミツバアケビ
ミツバアケビは、実離れが悪いタネをつけ、タヌキなど動物がしゃぶった後うんちに出た後、エライオゾームにひかれたアリに運ばせるという二段構え。
  風散布
林床植物には風散布種子は少ない。でもウバユリは、背をうんと高くして、よほどの強風でない限り飛ばないようにタネを詰めて、なんとかうまく生きている。
上向きに実の口が開くのはオニドコロ。近い仲間でも、ヤマノイモは実は下向きに口を開く。
さて、この違いはどういうことなのだろう?タネの構造が違うから飛ばし方が違う。
  雨滴散布
フデリンドウの実。花後に子房柄が伸びて、花冠の中から突き出てくる。乾燥していると口を閉じている。でも、雨が降って空気が湿ると、口を開く。なかにはびっしり、細かなタネ。
雨粒を受けて、飛び散るしくみだ。
森に生きる植物たちは、木々はもちろん、周りの生き物たちとお互いに関わりあいながら生きている。助けられる場合もあれば、食われる場合もある。そうした一つ一つの小さな関係が、たくさんたくさん積み重なり、からみあって、森という豊かな生態系が安定的に維持されている。

参加者の声(アンケート)

アンケート集計 アンケート回収 55件
   複数印をすべて集計
   未回答の項目もある
本日の講演会を知った契機
  チラシ(12)、ポスター(2)、広報(9)、新聞情報(7)、ラジオ・テレビ(0)、友人(13)、会員案内(15)
講演会への参加動機
  元々植物の生態に関心があった。(32)
多田先生の活動や著書を知って興味があった。(5)
この機会に植物の知恵を勉強する。(29)
その他
 ・植物に囲まれているのでその生態が判れば楽しいと思った。(1)
本日の内容について
  理解できた(45)、少し難しかった(7)、難しかった(1)、
その他
 ・身の回りの不思議な世界に気が付いた。
 ・新しい知識がまた増えました。
 ・とっても面白かった。
本日の講演会の運営について
 
会場 よい(31)
分かりにくい(7) (パーキングの苦情多かった。)
  その他  狭い(2) (混雑感があった。)
日程・時間帯 よい(47)、悪い(2) 土日回避
気付いた点 終了時間を守る(3)、暑かった(3)、暑くなかった(3)、地図、案内の充実(4)
今後の講演会への希望
  分野
  環境問題(12)、生物生態(植物(26)、昆虫(12)、動物(31)、鳥類(23))、森林一般(17)
  聞いてみたい講師
鷲谷いづみ 東京大学農学部教授 生態学
只木 良也 名古屋大学名誉教授 造林学森林生態学
宮崎 学 動物写真家 森の動物日記
小泉 武栄 東京学芸大学 教授 自然地理学
  その他
  ・森林と植物の関係が知りたい。
  ・最近の諏訪圏の森林の生態系と環境について知りたい。
  ・帰化植物対策、在来種の保護への取り組み
  ・八ヶ岳の森林植物を知りたい。
  ・身近に出没する小動物の生態について知りたい。
NPO法人八ヶ岳森林文化の会について
  知っていた(31)、名前は聞いたことがある(5)、全く知らなかった(19)
今後の私たちの活動についてのご要望
  ・素晴らしい活動をしていると思います。参加したいとも思います。
・勉強になりました。観察会にも参加したい。
・今後もこのような講演会とフィールドでの活動等気軽に参加できる機会があると良い。
・大変ためになる活動と思います。毎年このような形でやってほしいと思います。
参加者の年齢
  〜10代(2)、20代(0)、30代(0)、40代(5)、50代(9)、60代以上(38)
参加者の性別
  男(22)、女(23)

2010.8.28