森に生きる植物たちの知恵 |
|
|
講演資料より抜粋 |
緑に包まれた森の中。林床の植物たちはどのようにして生きているのだろうか。
植物は、水と光と栄養塩類を吸収して生活する。これらの資源は有限なので、植物の間には必然的に競争が生じる。
植物の行き方の方針、言いかえれば生きる戦略は、これらの資源をどのようにして得るか 、によって決まってくる。競争や環境の厳しさとにらめっこしながら。
|
● |
林床植物の光獲得戦略
|
|
林床植物の行き方は、大きく三つの戦略にわけられる。光をめぐる林床植物の戦略
|
|
● |
夏緑多年草 光を得る工夫をこらす。
例 ウバユリ 葉を平たく、一層に広げる。木漏れ日を受け止める工夫。春から秋まで保つしっかりした葉。
|
|
● |
常緑多年草 葉を大事につかうスローライフ
例 ジャノヒゲ 冬の寒さに耐える葉、厚くて長持ちする葉(その代わりコストはかかる)、ゆっくりした成長(スローライフの人生)。
長持ちする葉を作って、大切に使いまわす。リサイクル重視、いちばん「ごみ」のでない行き方だ。(江戸時代の日本人はこうだった)
|
|
● |
スプリング・エフェメラル 光が豊富な時期を狙った「すきま戦略」
はかなく頼りなげな「春の妖精たち」。
まだ寒いうちに目を覚まし、林の木々が葉を広げる頃にはもう実を結び休眠してしまう。
このような生き方を選択した植物は、科を問わず、ひろくみられる。
林床で風も通りにくいので、風媒花ではなく、虫媒花であり、虫をめぐる競争が激しいので、花びらをおおきく広げて競って呼び込む。
例 カタクリ
春先の明るい陽光を利用、競争もないから丈を高くする必要もない。早いスタートダッシュ、地下茎や球根の蓄積が必要で、1〜2カ月の短い地上生活
|
● |
林床植物に見られる葉の工夫
|
|
● |
光を受ける位置にある葉は厚く硬い陽葉となり、葉緑体料も多く光飽和点も高い
陰にある葉は、薄くて大きな陰葉となり、緑は浅く、すぐに光飽和にしてしまう。
|
|
● |
林床の植物たちは、一枚一枚の葉に工夫を凝らす。
林床には、斑入りの葉をつける植物が多い。どうしてなのだろう?
葉の裏が赤い植物のしばしばみられる。どうしてなのだろう?解明されてはいない。
|
|
● |
薄暗い林床から明るい樹上へと、成長に伴って生活場所を変える植物もある。こうした植物は、どんな葉をつけているのだろう?
テイカカズラの場合、全く違う葉をつけている。
|
● |
菌類との関わり
|
|
常緑照葉樹林の林床はとても暗い。林床植物もほとんど見られない。そんな常緑照葉樹林の下に平気で生える植物がいる。
|
|
● |
タシロランは菜箸を立てたような茎は真っ白で、どこにも葉をつけていない。じつは、タシロランは緑葉を持たない「腐生植物」なのだ。
タシロランの実。粉のようなものがタネだ。タシロランのタネは植物の中でも最小の部類。 タネは長さ0.2mm、ほこりよりも軽い。最初から菌類に頼るので、お弁当がいらないのだ。
|
|
● |
ギンリョウソウも腐生植物。ギンリョウソウの根。菌類に囲まれている。交じっている細い根は、菌類と共生している周りの樹木の根だ。
ギンリョウソウは菌類から一方的に利益を得ている。共生ではなく、寄生している関係だ。菌寄生植物、といったほうが実情を表している。
ギンリョウソウの実の断面。白い果肉の間に、ごく小さな種子がすじ場に多数並んでいる。
|
|
● |
森の植物たち、特に樹木は、その大半が多かれ少なかれ、菌類と共生関係にある。根を掘ってみると、菌類の菌糸がまとわりついている。これを菌根という。
たとえば、マツタケ菌はマツの菌根菌だ。
|
● |
森の植物の繁殖戦略
|
|
大きな樹木は、風にくるくる回るタネを飛ばしたり、鳥や動物が食べる実を作って、運ばせている。
草や低木といった林床植物は、あまり風には頼れない。林床植物の種子散布を見てみよう。
種子の生活形と種子散布の方法は、お互いに関連している。
|
|
● |
動物散布
モミジイチゴの実は甘くておいしい。鳥が食べると同時に、けものたちもタネを運ぶ。
|
|
● |
アリ散布
カタクリの種子はアリ散布である。林床にはアリ散布種子が目だって多い。 カタクリの場合は、白いエライオゾームの部分だけでなく、茶色い本体の表面にもアリを誘う物質が仕込まれている。
エライオゾームをつけてアリ散布の他の例 ミヤマキケマン、シロバナエンレイソウ、ミツバアケビ
ミツバアケビは、実離れが悪いタネをつけ、タヌキなど動物がしゃぶった後うんちに出た後、エライオゾームにひかれたアリに運ばせるという二段構え。
|
|
● |
風散布
林床植物には風散布種子は少ない。でもウバユリは、背をうんと高くして、よほどの強風でない限り飛ばないようにタネを詰めて、なんとかうまく生きている。
上向きに実の口が開くのはオニドコロ。近い仲間でも、ヤマノイモは実は下向きに口を開く。 さて、この違いはどういうことなのだろう?タネの構造が違うから飛ばし方が違う。
|
|
● |
雨滴散布
フデリンドウの実。花後に子房柄が伸びて、花冠の中から突き出てくる。乾燥していると口を閉じている。でも、雨が降って空気が湿ると、口を開く。なかにはびっしり、細かなタネ。 雨粒を受けて、飛び散るしくみだ。
|
森に生きる植物たちは、木々はもちろん、周りの生き物たちとお互いに関わりあいながら生きている。助けられる場合もあれば、食われる場合もある。そうした一つ一つの小さな関係が、たくさんたくさん積み重なり、からみあって、森という豊かな生態系が安定的に維持されている。
|