学習会 レポート  (H27年度)


  月に2回実施している学習会からの情報発信レポートを連載します。


2015.5.7 2015.5.21

〜自然資源を地域生活に活かそう〜
 今年度は地域資源の活用事例等をテーマとした学習を進め、地域活性化について私たちに何ができるかを探ります。
<使用テキスト>
「里山資本主義」藻谷浩介箸 角川書店
「質資源 とことん活用読本」農山漁村文化協会 発行 など

 第1回(5月7日)は、進め方やテキストについて参加者と懇談しました。
 5月21日は、「里山資本主義」 第1章 世界経済の最先端 中国山地
 原価0円から経済再生地域復活(1)〜(10)を担当井村、下田で行いました。

来月の学習項目

     
○6月4日
第2章 21世紀先進国はオーストリア
 ユーロ危機と無縁だった国の経済(1)〜(6)
担当南波
第2章 21世紀先進国はオーストリア
 ユーロ危機と無縁だった国の経済(7)〜(12)
担当小林
○6月18日
第2章 21世紀先進国はオーストリア
 ユーロ危機と無縁だった国の経済 (13)〜(18)
担当本村
中間総括「里山資本主義」の極意
 マネーに依存しないサブシステム(1)〜(7)
担当中野
 


2015.6.4 2015.6.18

「里山資本主義」学習会 5月分(5月21日実施分) 纏め  井村 淳一(会員)

当学習会も今まで森林文化、里山環境、地域文化について理解を深めてきたので、そろそろ地域資源の活用を目的に地域への貢献を模索していく狙いをもって、先ずは地域資源の活用を実践している事例とそれが地域生活環境にもたらす効果や意義を基礎知識として学んでおこうと思い、「里山資本主義」をテキストに学習会を開催することにした。

先ず「里山資本主義」の作者である藻谷 浩介氏のプロフィールとこのテキストで主張しようとしていることの要約を 学習会メンバーの石田さんに纏めて解説していただき、議論をした。この「里山資本主義」とは、この作者とNHK広島取材班の造語で「マネー資本主義」の対義語としてつくられた。即ち「お金が乏しくなっても、水と食料と燃料が手に入り続ける仕組み、生活する上で自立できる最低限を自給できる、安全安心のネットワークを用意しておこう。という実践。」と言っている。

第1章は「世界経済の最先端 中国地方」という仰々しいタイトルであるが、岡山県の北部島根県との県境にある真庭市で銘建工業株式会社と言う製材業を経営する中島社長は、自分の会社で木材を生産する過程で排出される樹皮、端材や大鋸屑、鉋屑を産業廃棄物としてお金を払って捨てていたものを見直し、この廃棄物を燃やして発電に利用し、その電気で機械を稼働させ、これにより製材や建築材の製造に使う電気や乾燥等のエネルギーを全てこれで賄うことにした。これにより電気代や、今まで産業廃棄物の処理費用として支払っていたお金も一切不要になった。さらに、これでも使いきれない、端材や木屑をペレットの製造に回し、化石燃料に代わるエネルギー源として、地元の公共施設のボイラー等で活用してもらう他、発電で出る熱も地域のビニールハウスの暖房や冷房等にも活用している。

「ふんだんに手に入る木材が地域の豊かさに繋がってゆかないのはなぜか」という問いかけに始まり、地元の若手経営者が集まって「21世紀の真庭塾」(塾長が中島さん)を発足し真剣に議論を始め、いままで考え付かなかったアイデアを具体化し始めた。これに真庭市内外の研究機関や大学及び民間企業等が集積し始め、バイオマスの町として生まれ変わっていった。そこには、新たな雇用も生まれて山を中心にお金が回り始めている。

一方広島県の最北部に位置する庄原市の惣領地区は典型的な過疎高齢化地域であるが、「過疎化で人が減り、荒れ放題となった里山、忘れられ、放置された資源に再び光を当て目いっぱい使って、如何に財布を使わず楽しい暮らしをするか、身の回りを見直し、地域資源を自分達の生活の糧に活用するアイデアを次々に実践し、里山暮らしの良さをPRする活動を加速させている人がいる。ライフスタイルを戦前に戻したり、電気のある便利な暮らしを全面否定するわけではなく。そうしたものも当然使いながら21世紀の里山暮らしの実践事例を紹介している。「金が一番」から「金より大切なものがある」ことへの気づきを人々に紹介し、そこに人が集まり始めている。

来月の学習項目

     
○7月2日
中間総括「里山資本主義」の極意
 マネーに依存しないサブシステム(8)〜(13)
担当石田
第3章 グローバル経済からの奴隷解放
費用と人手をかけた田舎の商売の成功
(1)〜(6)
担当定成
○7月16日
第3章 グローバル経済からの奴隷解放
費用と人手をかけた田舎の商売の成功
(7)〜(12)
担当井村e
(13)〜(18) 担当吉江
 


2015.7.2 2015.7.16

「里山資本主義」学習会 6月の内容まとめ  中野 昭彦(会員)

 ○第2章 21世紀先進国はオーストリア:ユーロ危機とは無縁だった国の経済
   担当:南波氏、小林氏、本村氏
 ○中間総括「里山資本主義」の極意:マネーに依存しないサブシステム
   担当:中野、石田氏
○第2章で、オーストリアが、知られざる超優良国家であり、林業が最先端の産業に変わり、その中で「里山資本主義」が最新技術を支えるものとして、「マイヤーメルンホフ」社の石油の代替燃料のペレット利用技術の紹介や、合言葉「打倒!化石燃料」のヴイントハーガー社(ペレットボイラー製造)の心意気と技術革新による独自技術で雇用創出されたことを紹介。

そして、林業は「持続可能な豊かさ」を守る術であり、「森林官」や「森林マイスター」制度や森林研修所を紹介し、林業の安全性・林業経営が金になる産業であり、高度で専門性の知識が得られるかっこいい仕事として山に若者が殺到している。オーストリアの林業が、元本に手をつけることなく、利子で生活できるとの根本哲学を持っていると指摘。さらに、オーストリアでは、「里山資本主義」は、安全保障と地域経済の自立をもたらしている。脱原発を憲法に明記し、ロシアからのパイプラインのガス供給ストップの脅しにも自立できたと紹介。

又極貧から奇跡の復活を果たした町:ギュッシング市のバイオマス分野の成功と、エネルギー買取地域から自給地域へ転換し、雇用と税収を増加させ、経済を住民の手に取り戻したと紹介。ギュッシングモデルでつかむ「経済的安定」を説く市長の紹介と「開かれた地域主義」こそ、里山資本主義であると説いている。銘建工業の中島社長が手がける鉄筋コンクリートから木造構想建築への移行が起きているCLT集成材の利用。ロンドン・イタリアでも進む木造構想建築から、産業革命以来の革命が起きたとヴインター教授の話を紹介。又日本でもCLT産業が国を動かし始めたと紹介。

○中間総括「里山資本主義」の極意
 ――マネーに依存しないサブシステム――
日本の加工貿易立国モデルが、資源高によって逆ザヤ基調になってきている。その為には、マネーに依存しないサブシステムを再構築しようと呼びかけている。その里山資本主義を中国山地の実情から分析し、エネルギー革命以降は、逆風が強かった中国山地。地域振興の三種の神器(高速交通インフラの整備・工場団地の造成・観光振興)でも経済は全く発展しなかった。

全国どこでもできる庄原モデルの事例や、真庭市の中島社長のエネルギーの地産地消の取り組みと木材利用の技術革新の動きと、オーストリアは、地下資源から地上資源へのシフトを起こした事例から、日本でも人口1,000万人規模の地域エリアは、同じ路線を追求すべきと提言する。

マネー資本主義と里山資本主義の二刀流を認めない極論の誤りを為さず、矛盾する原理を止揚する弁証法の考え方で見直す時期にあると指摘。マネー資本主義へのアンチテーゼ@「貨幣交換できない物々交換」の復権、A規模の利益への抵抗、B分業の原理への異議申し立てを提言している。そして里山資本主義は、気楽に都会でもできると提言する。「顔の見える商品」等を選ぶ。空き家利用や空き地の家庭菜園づくり等から、人間が豊かに暮らすという人と?がった絆を確認できる。お金では買えない本当の自分を見つけることだと提言している。  以上

来月の学習項目

     
○8月20日
第4章 「無縁社会」の克服
(1)〜(6)
担当小林
(7)〜(11) 担当南波
○8月27日
第5章 「マッチョな20世紀」から
 「しなやかな21世紀」へ(1)〜(8)
担当福川(浩)
最終総括 里山資本主義で不安・不満・不信
 に決別を(1)〜(6)
担当福川(め)
 


2015.8.02 2015.8.27

「里山資本主義」学習会 (7月2日実施の内)まとめ  定成 寛司(会員)

 第3章 グローバル経済からの奴隷解放
 ― 費用と人手をかけた田舎の商売の成功 ―
・ 本書はこれまで地域の資源を見出し、地域循環型の経済を生み出している人を紹介してきた。岡山県の北部島根県との県境にある真庭市や、広島県の最北部に位置する庄原市の総領地区といった中国山脈の奥地を取り上げてきた。
 第3章では一転して、瀬戸内海の島の中でも典型的な過疎地域である山口県の周防大島を取り上げている。
 周防大島は瀬戸内海で3番目に大きな島で、温暖な気候。年間平均気温15.5℃。傾斜地と温暖な気候を利用。柑橘類の栽培が盛んであるが、高齢化率47.7%(2012年)。日本で最も高齢化率の高い自治体のひとつでもある。
 この島に東京から電力会社を辞めてIターンした松嶋匡史氏を紹介している。カフェを併設したジャム屋を開業した。また松嶋匡史氏に続いて島を目指す若者が増えている例として三氏をも紹介している。  笠原隆史氏(20代)―養蜂家への転身。家族小規模経営。
 山崎浩一氏(40代)―レストラン経営。(ミカン鍋)
 新村一成氏(30代)―水産加工会社経営。(オイルサーディン)等である。
 このように松嶋匡史氏をはじめとして、若者達が成果を上げられた主要因として考えられることは。
1.ミカン農家からの転換の遅れ。大量消費地である関西エリアには他の生産地よりも遠距離で運送費負担が原価に付加され価格競争に勝てなかったことから、島の特産物が危機に瀕し、後継者の養成が儘ならなくなっていたことが挙げられる。転換の成功例としては、香川県小豆島のオリーブ栽培、広島県生口島のレモン栽培、広島県因島の八朔栽培など。
2.地域オピニオンリーダーの受入れ体制づくり。
松嶋匡史氏夫人が島の出身であり、その父上が僧侶で島民の指導的立場にあったことも見逃せない。
3.周防大島は他島民を受入れる土壌を持った土地柄。
瀬戸内海の島嶼部には、江戸時代以前から家船漁業制度があり、周防大島にはその港があり他島民を受入れる土壌を持った土地柄であった。  家船漁業制度とは、家族で小型漁船に乗り込み、瀬戸内海全域を魚場に季節ごとに魚種を変えながら移動する漁業形態。魚場付近の市場に水揚げして生活。自宅(母港)には、正月と盆の2度のみ帰港。子どもは就学年齢になるまで船で生活。小学校入学時に高齢で陸に揚がった親族に委託。昭和40年頃まで見られたとされているが、昨年12月にNHKで現代の家船を放映した。山口県周防大島 安下庄港、広島県尾道 吉和港、愛媛県今治 波方港などが代表的な港。
・ このように島を目指す若者が増えている現象や若者の消費傾向を「ニューノーマルが時代を変える」として、三菱総合研究所 阿部淳一氏を紹介している。
 震災以降、若者たちの消費傾向の変化―リーマンショックを機にマンハッタン金融街を中心に唱えられるようになった新たな概念―右肩上がりの成長を前提とした投資に期待ができなくなった。
 自分のための消費(ブランド品や高級品)から、つながり消費(家族や地域社会とのつながりを確認できるもの)―新しいもの(所有価値)から、今あるものをどう使うか(使用価値)に重心が置かれる。1990年代のバブル崩壊で芽吹き、リーマンショックで一気に顕在化、東日本震災で加速化した。
・ 周防大島にIターンした松嶋匡史氏のカフェを併設したジャム屋を紹介しているが、第六次産業の台頭にも注目したい。
 第六次産業とは、第一次産業である農林水産業が、農林水産物の生産だけにとどまらず、それを原材料とした加工食品の製造・販売や観光農園のような地域資源を生かしたサービスなど、第二次産業や第三次産業にまで踏み込むこと。農業経済学者の今村奈良臣氏が提唱した造語。
・ 農業だけでなく漁業にも、その傾向がみえている。
その例として神奈川県・鎌倉市材木座の前田水産の行列のできる魚屋(白魚漁とその付加価値商品の販売)。
・ 農林水産省も農山漁村の活性化のために、地域ビジネスの展開と新たな業態の創出を行う取り組みを推進している。
 資料として@六次産業の考え方、 A六次産業化多様な形態、 B六次産業化を成功に導く要件の3点を添付した。

来月の学習項目

     
○9月3日
最終総括 里山資本主義で不安・不満・不信に決別
(1)〜(6)
担当福川(め)
(7)〜(12) 担当下田
○9月17日
最終総括 里山資本主義で不安・不満・不信に決別
(13)〜(18)
担当井村(淳)
 


2015.9.4 2015.9.18

藻谷浩介著「里山資本主義」 8月学習内容のまとめ   南波 一郎(会員)

 8月度は第4章「無縁社会」について学習しました。担当は小林、福川(浩)、南波です。
里山資本主義の例として下記を紹介しています。

1.“無縁社会”とは人々の関係が希薄で個人が孤立して生活している状況を言い、都会、地方共に一般化し孤独死等、さまざまな問題を起こしています。まさに高度成長を経て辿り着いた日本の現実です。筆者は“無縁社会”克服として広島県、庄原市で取組まれている例を紹介しています。典型的な人口減、高齢化の同市が熱意のある個人を中心に活動し、若者の定住、人の繋がり復活で高齢者の生きがい、市の活性化に成功しています。
 具体的には空家利用でのデイサービス施設開設で高齢者孤独の解消、レストランと保育園の隣接開設によりレストラン利用の高齢者と幼児の交流、子育世代の母親を含む若者の職場確保を実現。又、高齢者栽培の余剰野菜を上記の施設が買い取り地域通貨で回転させ町の活性化、農家のやりがいを達成しています。
 庄原市の例は福祉国家フィンランドからも視察団が来るほど注目されています。この様な先進例は世界各地で存在しネットでも紹介されています。経済効率主義の弊害を実感している昨今では、これらの例を取り入れいかに普及させて行けるかが各国に問われており今後の新しい社会作りの鍵となります。

2.次に紹介しているのは“スマートシティ”です。これはエネルギー自給型の町で地方は無論、都会でも可能です。要は大都会を小さな単位に分け自然エネルギーで自給します。
 自然エネルギーの不安定性はスマートグリッドで各戸が融通して克服し、この各戸の連携が各戸の孤立を防ぐ事にもなります。無縁社会からコミュニティへの復活です。無論、工業製品は多量のエネルギーを消費するので別途に火力発電等で賄う必要があります。
 スマートシティは世界でも始まっていますが、日本では北海道上川町、宮城県気仙沼市等で進められており自然エネルギーとして木材バイオマスが大きなウェイトを占め林業再生、森林保護等含め大きなメリットがあり我が国、山国の特徴を生かしています。

3.要は“マッチョな20世紀からしなやかな21世紀”へ、“集中から分散”へ、“手間返し・・・お互いに助け合いお礼をする連鎖・・・でのコミュニティの復活”は日本の得意の分野でもあるので早く実現し工業社会との両輪にしたいと筆者は強調しています。

来月の学習項目
 10月から新しい教材に入ります。
 「木質資源とことん活用読本」熊崎実/沢辺攻編纂
        社団法人 農村漁村文化協会 発行
 これから参加も可能です。

     
○10月1日
担当決め、他  
○9月17日
講義内容未定  
 


2015.10.01 2015.10.15

藻谷浩介著「里山資本主義」 9月学習内容のまとめ  小林 喜久一(会員)

地方の取り組みやバイオマス発電について紹介している本書の勉強会について

グローバルな経済や考え方に一石を投じ、異なる方向性があることを示していますが、内容に対する批判が多いことも特徴であり、それだけ影響は大きかったようです。
最近のここでの勉強会では、茅野市の財産区や地元諏訪についての輪読を行っているためか、ただ本の内容だけ机上の空論で終わらせるのではなく、地に足が付いた具体的な取り組みの重要性を強く感じました。

振り返って、自分が住んでいる地域、八ケ岳西南麓、諏訪地域、茅野市に於いてはどうなのだろうか、何をしていったらいいのかを考えさせられる勉強会でした。

また、10人近い輪講での勉強会のため、たくさんの情報が提供共有され地元での活動についても知ることが出来ました。
・長野県が塩尻に計画している大規模バイオマス発電所
・飯田市で今年から稼動した木質バイオマスガス化発電
・上田市の地域通貨まーゆ など

学習会風景

来月の学習項目

     
○11月5日
第2章 木のエネルギーの基本(2) 担当下田
第3章 森林バイオマスの収穫と搬出 担当小林
○11月19日
第4章 木質燃料の生産
(1)〜(2)  担当井村(悦)
(3) 担当本村
 


2015.11.5 2015.11.19

地域資源活用学習会 10月分 纏め  井村淳一(会員)

9月一杯で「里山資本主義」の学習を終え、10月からは「木質資源とことん活用読本」 (熊崎 実/沢辺 攻 編著 農山漁村文化協会 発行)をテキストに木質資源に焦点を当て具体的な資源活用の学習に入った。 国際エネルギー機関(IEA)は、温室効果ガスの排出量を2050年までに半減させるエネルギーシナリオを公表して、 一次エネルギーの総供給量でのバイオマスの比率は2010年度の10%から24%まで高まることを想定している。  木質バイオマスの利用は、脱原発、脱化石燃料を旗印にした、北欧、中欧が先導して進んでいる。森林蓄積が増え続けている 日本の立ち遅れが顕著である。(例えば、一次エネルギー総供給に占める木質バイオマスの割合では、スエーデンやフィンランドでは20%弱あり、 ドイツで3.5%、イタリアでも2%を超えるが日本は1%である。)

木質バイオマスの本命は発電ではなく熱供給であるのは自明であるのに、固形生物燃料(木質バイオマス)の仕向け先を見ると、 EUでは発電専用への仕向けは10%、熱電併給に13.4%、熱供給に50%であるのに、日本は発電専用に54.5%、 熱電併給は0%、熱供給は0.2%であり、熱供給に向かっていない。 日本はドイツに2年遅れて、電力固定買い取り制度を導入したが、ドイツの電力固定価格買い取り制度を比較すると、 日本のこの制度が発電専用を前提としたものであるのに対し、ドイツは熱電併給が前提になっている。もう一つの大きな違いは、 ドイツやIEAの買い取り価格は、電力の出力規模により(出力規模が大きくなる程、買い取り価格は低くなる)買い取り価格が 設定されていることです。日本は燃料の種類(未利用木材、一般木材、リサイクル木材、混焼)でのみ買い取り価格が決められているので 発電効率が向上する大規模化の方向に進んでいる。発電量が1万KW以上のものでは、発電プラントを1年間安定して稼働させるには 数万トンから数十万トンの燃料が供給される必要があるが、これを確保するのは至難である。集材範囲が拡大し、 燃料調達コストも上がるため、再び材料の海外調達に走り、国産材の利用低迷が再び起こりうる懸念さえある。

多少規模は小さくても、木材のカスケード利用の仕組みの中で安価な燃料を確保し、電気と並んで熱供給でも収益が あげられるようにすべきだが、我が国の発電プラントでは、設計段階から排熱の利用が殆ど考慮されていないものが多い。 ローカルに集められる材料をそのまま活用し、地域ごとにエネルギーの自立を目指すべきであろう。オーストリアの ギュッシングはこうして自然エネルギー100%を達成し、地域での雇用も増やした。

第2章では木そのものが持つエネルギーについての基本事項を学んだ。木質燃料は含水率によって発熱量が変化する。 含水率が低い程発熱量は増大する。一方一定容積内に含まれる熱量をエネルギー密度と言い、燃料のかさ密度(トン/m3)に 発熱量(GJ/トン)を乗じて求められるが、エネルギー密度の高い燃料程一定容積に貯留できる熱量が多く、 運搬や貯留効率が高く、燃焼器の寸法も小さくできる。よってエネルギー密度は燃料性能の重要評価項目であり、 エネルギー密度と木質燃料の生産コストのバランスが重要になる。

来月の学習項目

     
○12月3日
第5章 ストーブ、ボイラーの活用方法
(1)、(2) 担当吉江
(3)、(4) 担当定成
○12月17日
第4章 木質燃料で地域の冷暖房
(1) 担当石田
(2)〜(3) 担当井村(淳)
 


2015.12.3 2015.12.17

地域資源活用学習会 11月分 纏め  本村光子(会員)

10月から読み始めた「木質資源とことん活用読本」の第2章『木のエネルギーの基本』の後半、[木質燃料をエネルギーに変える]、 第3章『森林バイオマスの収穫と搬出』、および第4章『木質燃料の生産』を11月に学習した。
このうち、主に学習した第3章、第4章は伐倒から搬出、チッパー、そして薪ストーブやペレットストーブという私たちにとり 非常に身近な内容だったが、私にとっては新たに再確認した点も多々あった。

このうち第4章の[木質チップ][木質ペレット]は、ちょうど10月に森づくり部会が企画してくれた飯田市郊外の かぶちゃん村での木質バイオマスガス発電所見学と同時にチップ工場、ペレット工場も見学することができ、 学習会のメンバーの多くが参加していたため、テキストで復習し、更なる疑問を考えることができたかと思った。 とてもタイムリーな見学を実現してくれた森づくり部会には感謝している。

さて私は[木質ペレット]について担当した。ペレットは1980年代の石油危機に伴い化石燃料に代わるもの として注目されて欧米で広がり始めたが、石油価格が下落すると忘れられたが、地球温暖化の防止への関心と 共にまた復活し、カナダ、ロシアなどでは輸出が盛んになっている。日本ではバイオマス利用に対する林野庁の 助成開始と共に広がりを見せたが、現実的には国内の全工場の68トン/hの生産能力のうち、半分は稼働していない (輸入品との価格競争か?)のが現状で生産も消費も欧米にははるかに及ばない。また、日本では主にボイラー用 (ハウス暖房、温泉・プールの加温など)として利用され、家庭での利用は1割程度と見られている。

ペレットは丸太だけではなく、木材工場から出る樹皮、おが粉、端材を原料とし、顆粒状に砕いて圧縮し、 棒状に固めて乾燥させたもので、大きさは1−2p、直径6−12ミリのものが主流となっている。 森林から切り出してそのまま利用する薪、細かくするチップ、そしてペレットを大まかに比較すると 次のようになる。(材質などで異なる)

かさ密度 エネルギー密度 材のばらつき 燃焼機器への供給 電気の利用
- - ある 手動 なし
チップ 1 1 ある 自動 あり
ペレット 2 3 少ない 自動 あり
2 6 少ない 自動 あり
注:かさ密度は容量当たりの重さでチップを1とした比較
  エネルギー密度は容量あたりの発熱量でチップを1とした比較

薪は森林から切り出して燃料として利用できるまでにあまりエネルギーを必要とはしない。 しかし、輸送し易いチップにするにはチップ化するエネルギーが必要となる。更にかさ密度やエネルギー密度に 優れているペレットにするには乾燥、圧縮などにエネルギーを必要とし、焙煎ペレットは通常の ペレット化プラス焙煎のエネルギーを必要としている。またチップおよびペレットは電気で自動供給に なっているため、災害時には問題が起きる可能性もある。

薪ストーブ使用者の私としては、コツコツと薪を準備する健康な作業、寒くなると毎日自分の手で 火を熾す楽しみ、そして炎を眺める楽しみが、薪ストーブの輻射熱による柔らかな暖かさとともに 大切な生活の彩になっている。太古の昔から火は人間の安全を守り、温め、調理に使われ、 明るさをもたらして人に安心感を与えてきたのではないだろうか。 薪であれ、ペレットであれ、家庭の中で燃える火がもたらす豊かな時間は決してテキストには 記されていないと思いつつ、薪をくべながらこの原稿を書いている。

来月の学習項目

     
○1月7日
第7章 木質バイオマスによる発電
(1)〜(5) 担当下田
(6)〜(9) 担当中野
 


2016.1.7

「地域資源活用学習会」を終えて  下田 英雄(会員)

当学習会は、森林観察学習部会が中心となって、毎年ある程度のテーマを決め、そのテーマに沿ったテキストを 選んで輪読しながら議論を深めていくという方法をとっている。今年度は、「地域資源の活用」をテーマとし、 テキストとしては、@『里山資本主義』(角川書店)〔ちなみに40万部のベストセラーになった〕と A『木質資源とことん活用読本』(農山漁村文化協会)の2冊を選んで学習を進め、1月7日をもってひとまず終了した。 この学習会を通じて参加メンバーはそれぞれに多くのことを感じ、学んだことと思うが、テーマやテキストの選定に 関わった一人として、ここでは個人的(独断的)な思いや感想を述べさせてもらうことにした。
改めて、我が八ヶ岳森林文化の会の目的を見ると、「森林が有する有益な機能と森林文化を多くの人々が享受し、 生活を豊かにしていくために、(中略)美しい活き活きとした森林を楽しみ、護り末永く伝えていくこと」とあり、 スローガン的に言えば「豊かな森林(もり)を子供たちの世代に!」となろう。このことをあえて私流に言わせて もらえば「森林(里山)の恵みを持続的に享受していけるようにしていくこと」と思っている。
ここでキーワードになるのが“持続性”であるが、この持続性を担保していく上で最も鍵になるのが“経済的活動” (といっても必ずしも儲ける話ではなく、「日々の生活に何らかの形で役に立つ行為」のことを指す)ではないだろうか。 つまり「日常の暮らしにとって、森林(里山)が欠かせない存在となること」こそが、その持続性を保証していく、 という意味である。

さて、こうした観点から学習に使ったテキストの内容に関する感想を述べてみたい。
『里山資本主義』では、この造語自体に違和感を覚える方もいるかと思うが、著者の意図は「里山に象徴される地域に 存在する資源を資本として活かす経済活動」のことを、このように表現し、現在世界を跋扈している「マネー資本主義」 に対峙するものとして提示している。金で金を生み出す実体を伴わない「ヤクザな経済」から、金をかけないでも 暮らしていける「かたぎの経済」「安心の経済」を少しでも取り戻そうという提言でもある。
そして、(具体的な活動内容の紹介は字数の都合で省略するが)中国地方を中心とした里山資本主義の実践例の数々が (調査内容に多少不十分なところがあるとしても)、生き生きと紹介されており、今後の我々の活動にも活用していける 多くのヒントや知恵を学ぶことができた。

『木質資源とことん活用読本』では、今後我が国でも木質バイオマスを、特にエネルギー源としてとことん活用していく 必要があるとの観点から、木質エネルギーの基本的知識に始まって、木質燃料の生産・加工、ストーブ、ボイラー、 地域冷暖房、発電等への活用の、海外を含めた具体的事例と問題点さらには今後への提言に至るまで、詳細に述べられている。
ここで痛感させられたことは、日本と同程度の森林資源を有する欧米諸国に比べ、木質バイオマスの活用面で(それを可能 とする林業や林産業も含めて)、日本は熱意においても技術開発面でもはるかに遅れをとっている、ということであった。 このことの背景には複雑な要因があるとしても、例えばバイオマス発電の分野でみても、いち早く“脱原発”に踏み切った ドイツにおいて、小〜大規模に至る発電技術が切れ目なく開発され、稼働しているのに対し、日本における稼働事例は未だ 点的存在にとどまっているのは、今なお“原発依存”を続けようとしている政策と無関係とも思えず、さらには地球温暖化対策に 対する熱意の差がここにも表れているのではないか、ということも考えさせられた。

新しい年明けとともに、政治的にも経済的にも「2016年は大激変の年」といった声が世界的に聞かれるようになってきた。 貿易立国の掛け声のもと、グローバル経済にどっぷり浸かってしまった日本は、大変危険な状況に陥る可能性も否定できない。 しかし、その時、「森林(里山)の恵みを暮らしに取り込んだ経済的活動」が機能していれば、それが最低限のセーフティネットとなり、 そこから地域の、ひいては国の自立にもつながっていくはず、と言っては言い過ぎであろうか。
上記の2冊の本は、その実践につながる具体的な知識やヒントを与えてくれるもので、学習会に参加されなかった会員の皆さんにも 是非読んでいただきたいと願っている。

来月の学習項目

     

輪講は終了しました
講師を招いての学習会は、 決まり次第、お知らせいたします。

 


2016.2.10

長野県 出前講座 「木質バイオマス発電の現状と問題」実施報告  井村 淳一(会員)

 2月10日、森林観察学習部会の27年度の学習会の纏めとして、長野県 林務部 信州の木活用課  県産材活用推進室の 千代 登 氏 に出前講座として「木質バイオマス発電の現状と問題」と題して、 お話をしていただいた。
 急遽の開催にも関わらず、総勢24名の方々にご参加いただき、今年度の学習会の良い纏め会になったと思います。
 以下、講師のお話の纏めと質疑の内容を簡単に纏めてみたいと思います。

 長野県の素材生産量は、平成15年度を底(24.5万m3)に増加に転じ、平成23年度からは、増加が顕著で、 H25年度は43.7万m3に達し、平成32年度には75万m3の生産を見込んでいる。 その素材利用状況では木質ペレットが10%、発電施設での利用が49%、薪への利用が23%である。

 長野県 F・POWERプロジェクトは、木材加工施設から電力・熱供給のカスケード利用により、県産材の活用による電力、 熱エネルギーの地産地消と雇用の新たな創出を狙いに循環型社会の形成を目指し、塩尻市で建設を開始したプロジェクトである。 木材加工施設は平成27年4月に稼働開始(赤松、及び広葉樹による床材の生産)したが、未利用材によるバイオマス発電は、 当初平成27年9月稼働を目指したが、コストや建設資金増等諸搬の状況で、現在は平成29年春の稼働を目指している。 木材加工施設は10万m3の原木を使い2万5千m3 の床材生産を目指す。バイオマス発電では、10万m3の原木と木材加工施設から出る7万5千m3の 素材を使い10MWの発電と36GJ/hの熱供給を目指している。しかし現状では地域への熱供給については見通しが たっていない状況とのこと。

 この他に、県内では、飯綱の「おやまの発電所」10年ほど前から発電をしており、最近では飯田市の 「かぶちゃん村木質バイオマスガス発電」施設が完成した。また、今年5月から安曇野のバイオマス発電が開始されるのと、 栄村の発電システムがこれから稼働開始する。(いずれも、かぶちゃん村の発電設備を担当した会社「ZEエナジー」が参加している。)  また、世界の状況として、長野県とオーストリアの森林・林業に関する技術交流の一環として、木質資源の活用の状況についての報告があった。 木質資源のエネルギーへの活用についてオーストリアでは元々木質資源は熱源の燃料としての活用がベースにあり、 木質バイオマスの発電利用にはその余力を活用するのがベースになっているが、日本での木質資源のエネルギー利用は 電力供給が基本になっていて、今計画されている木質バイオマス発電設備の殆どは熱利用について考慮されていない。 この場合の損益分岐点としては、5000KW以上の発電設備となってしまうため、大型志向になっている。

 長野県としても、現在のF・POWERプロジェクトが国や県の助成を得ながら稼働を続ける間に何とか、地域密着型の小規模な 木質バイオマスの熱利用システムとその余力による電力の併給システムが県内に広がるよう、技術革新や地域住民の意識改革が 進むことを願って取り組んでいるところである。

 質疑として、

(1)

オーストリアで使用されるエネルギーの32%が再生可能エネルギーとのことだが、その日本或いは、 長野県での状況を知りたい。
=>具体的な数字を今持ち合わせていないが、資料はあるので別途、回答をします。とのことでした。 ただ、長野県の場合は水力発電に依存するケースが大きいので、再生エネルギーの活用割合は低くないが、 木質バイオマスの割合いということでは、非常に低い状況である。

(2)

F・POWERプロジェクトが全稼働した場合の、原材料の供給は見通しがたっているのか?
=>山側の素材生産力や労働日数は上がってきているので、県の森林組合や地域の素材生産組合の見通し では供給に関しては、心配不要とのことである。
しかし、このようなプロジェクトが県内にいくつか出来ると、素材の供給が逼迫するのは必然なので、 大規模な施設についてはコントロールしなければならない。

(3)

木質のセルロースをエタノールにしてエネルギーに活用する方法の見通しはどうか?
=>我が国では森林総合研究所の研究や実験施設が作られているが、コストが問題で普及への見通しはまだない。

 その地域での化石燃料依存から、再生エネルギー特に木質バイオマスエネルギーの熱や電力利用へ意識改革、 環境への配慮はもちろんであるが、さらに地域での継続的な素材生産の見通しや、その地域に合った、 小規模でコストパフォーマンスに優れた熱供給プラント、電力供給プラント技術革新等、バランスに配慮したエネルギー政策の推進が待たれる。

以上  

     

今年度の学習会は終了しました。

2015.5.30