学習会 レポート  (H28年度)


  月に2回実施している学習会からの情報発信レポートを連載します。


2016.5.12

〜森林の理解を深め、森林資源の活用を考えよう〜
 5月12日 28年度 最初の学習会を開催しました。今年度は「人と森の環境学」≪東京大学出版会≫をテキストに例年と同様な方法で学習会を続けることとした。テキストがまだ参加者全員の手元になく、次回までに配布されるので、今回は先ず、スタッフの石田さんが、このテキスト全体の内容及び構成について以下の解説をしてくれた。
 2000年前後に従来の林産物(木材)中心の経済的林業政策から森林の公益的機能を重視した森林の多面的機能を発揮させる枠組みが求められ、2001年に新たな「森林・林業基本法」がスタートした。これを受けて、森林と人との関わりに着目した以下の5つの観点で森林への理解を深める目的でこのテキストは構成される。
@地球規模の水の動きを基礎とした、森林の良好な人間環境の保持
A心理学的あるいは工学的な分析から快適な森林景観、森林空間を「生活者」の観点から論じる。
B林業にかかわる人々 生産者と森林との関係を論じる。
C森林管理計画を含み、社会的側面を備えた森林認証制度に着目し、「消費者」と森林の関係を論じる。
D熱帯地域の人々と森林の関係及び政策決定者との関係を論じている。

 次回以降、輪講の講師と分担を決め学習を進めていくが、次回5月26日の担当、分担は以下になります。
第1章 森の現在と過去
○担当講師 井村(淳)
森林はどのくらいあるのか? 森林の定義と資源量 
日本の森は減っているか?
明治以降の森林面積の推移 
○担当講師 石田
森は私達の生活とどのように関わっているのか?
  日本人の生活と身近な森林問題
日本の森林はなぜ苦境に陥ったのか?
  日本の森林・林業の現状


2016.5.26 6.2 6.16

「人と森の環境学」 6月2日の学習会から  下田 英雄(会員)

第2章 生活者にとっての森林環境
  ―ふれあい活動と風景―
2−1 生活設計としての森づくり
 ここでは、章のサブタイトルに「ふれあい活動」とあるように、「生活者にとってのこれからの森林との付き合い方」が主なテーマになっている。まさに、「八ヶ岳森林文化の会」の活動に対しての理論的な裏付けとともに、今後の活動に対しても重要な提言(示唆)を与えてくれている内容と言える。
 以下、簡潔にまとめて報告とするが、是非原文をじっくり読まれることをお勧めしたい。
(1)日本の自然は「原生自然」なのか
 まず、日本の自然の現状と人々の自然に対する関心の変化が概説されている。
・日本の国土面積の2/3が森林だが、そのうち「原生的自然」は25%に過ぎず、森林全体の2/3は人為の加わった自然となっている。そのうち、人々の居住地周辺で生活と深くかかわってきた森林が「里山」である。
・この里山環境の荒廃と原生自然の消失とはメカニズムが根本的に異なり、里山を守り維持し、良好な環境として保っていくには、適切に人手を加え続けていかねばならない。
・最近になって、観光やレクリエーションのみならず、日常生活の中で自然と触れ合う観点が注目されるようになり、二次的自然が認識されるようになってきた。
(2)現代人の自然との付き合い方とは
 こうした観光やレクリエーションに対する志向の変化をふまえ、「環境の資源化」について述べられている。
・これまでの「移動・刺激」を基本とした周遊型観光から、ゆっくり滞在して「環境や場の魅力を深く味わう」ことが志向されてきている(グリーンツーリズム、自然観察会、木工や染色などのクラフト体験、森での音楽会や美術展、森林管理作業のレクリエーション化など)。
・つまり、単に美しい景観を対象化して鑑賞することから、身を置く環境の快適性を「五感」で楽しむことが求められるようになってきたということであり、これは「環境が資源化してきた」ことを意味している。
・そのため、様々なタイプの森林が資源としての可能性を持つようになってきた。経済的価値のみならず、ふれあい活動や生活の場としても評価されるようになってきた。
(3)人が楽しく過ごす森林とは
 こうした新たなふれあい資源性を発揮する森林とはどのような形態を持っているのか、さらにはその資源性を増進させるにはどのような整備・対応が必要になってくるか、述べられている。
・基本的には「活動選択に関して自由度の高い舞台としての森林」が求められる。そのためには、生物相の面でも景観的にも「多様性を有した森林」であり、林内での様々な活動を誘発する「快適で明るく、活動しやすい森林」が必要となる。
・また、躊躇なく林内に入れ、様々な活動が活発に行われるためには、明るさや見通しを得るための適切な立木密度が求められ、そのための整備も必要である。
・森林を十分に楽しむためには、遊び方や楽しみ方にも工夫が必要である。したがって、森林とのふれあい活動を促進するためには、空間整備に加えて、遊び方、楽しみ方のプログラム開発やインストラクターの養成が必要となってくる。人々の、自然を認識し、自然と付き合う能力が低下してきている今日、森林と豊かに親しむためには指導が必要となってきていると言えよう。

7月の学習項目

     
○7月7日
3−2 森をつくる林道 担当定成
4 消費者とディン厘をつなぐ −森林認証制度
4−1 グリーン・コンシューマリズムと森林認証制度
担当本村
○7月21日
4−2 森林保全と森林認証制度 担当南波
5 地域住民と森林 −熱帯林の社会と制作
5−1 熱帯林をめぐる議論への視座
担当井村j
 


2016.7.7 7.21

「人と森の環境学」 7月7日の学習会から  本村光子(会員)

第4章 消費者と森林をつなぐ(森林認証制度)
4−1−1および4−1−2 森林認証制度の設立経緯と消費者の認知について
 この2つの節では、ヨーロッパでどのような経緯で森林認証制度が発生し、発展しつつあるか、ということと、そしてそれを消費者がどのように受け止めているかということに焦点が置かれている。
 森林認証制度は、適切に維持管理されている森林を認証することによってそこから産出される木材および2次加工品などに認証ロゴをつけて差別化を計り、付加価値をつけて消費を促し、適切に維持管理される森林を増やしていこうという制度である。
 現在世界で最も広く認知されている森林認証制度は1993年に設立され、ヨーロッパに本部を置く森林管理協議会(FSC)が認証しているものである。2006年現在で世界62か国、3700万ha(森林の1%)が認証され、日本でも18か所の森林が認証されている。
 森林認証制度の便益としては大きく2つに分けられる。
A)政府と公共にとっての便益
1.森林管理の水準を改善し、森林の多面的機能を高める
2.森林管理者の説明責任を果たす
3.法律や規制の一部をカバーする結果、政府の役割をより高度なものにする
4.第三者機関に委ねることで、政府が森林を監視する負担が軽減する
B)生産者の経営にとっての便益
1.市場への参入機会やシェアを維持・獲得する
2.生産者の森林・資源・資本へのアクセスを維持・獲得する
3.認証木材に対する価格プレミアムを得る
4.生産者の環境面・社会面のリスクを減少させる
5.従業員や出資者のモラル・自覚・技能を高める
 海外では自治体レベルで認証木材を優遇したり、入札に有利に働いた例もある。
 また、イギリスのDIYショップチェーン、B&Qの成功例を見ると、まずこのショップの経営者が認証制度の重要性に注目し、仕入れをFSCの認証を得たものに限定するとともに、顧客への啓蒙活動も行い、認証製品に対する消費者の購買意欲を高めた結果が成功に結びついている。ドイツの出版界の例を見ると、出版社が大量に紙を使うというBargaining Powerを活用して、製紙業界にFSC認証の用紙を納入させ、出版して結果的には消費者にFSC認証の紙で作られた書籍を届けることに成功している。
 これに比して日本では消費者や業界が必ずしも森林認証の価値を認めていないのが現状と言える。そのような現状打開のためには、国や地方の政府・マスコミ・環境団体の役割が重要だと筆者は結論づけている。
 興味深いことに筆者は「便益」の中に最も重要なカギとなる「消費者にとっての便益」を入れていない。しかし、消費者が購買時に森林認証された製品を選択することこそ、森林認証の重要な目的であり、その結果として森林の適切な維持・管理が最終目的ではないのか。私論を述べると、「市民運動などが活発になり、環境団体が動く ⇒ 業界や政府が無視しがたくなる ⇒同時に、消費者も森林認証を通しての森林の維持・管理への貢献がひとつのステータスや自己実現になることを認知する ⇒ このような付加価値を認知し、価格が高くとも認証商品購入の動機付けが生まれる」というのが考えられるシナリオだが、それには、同時に多大な啓蒙活動のエネルギー(費用・時間)も必要とされる。
 日本の荒廃している森林問題を考えると、解決策の一つとして考慮すべきものではないか。

8月の学習項目

     
○8月4日
5−2 地域の実態を国家政策 担当石田
 コラム1 −熱帯林消失の原因
 コラム2 −焼き畑農業の技術的特徴
 コラム3 −社会林業及びコミュニティ林業
 コラム4 −地球環境問題の中の森林
 コラム5 −住民参加の程度・レベル
担当下田
○8月18日
6 森についての6つの問い
 問い1 森林の多面的機能を十分に発揮させるには?
 問い2 誰が森林を管理するのか?
 問い3 森林は経済的に成り立つのか?
担当中野
 問い4 森林の教育利用はどうすれば成功するか?
 問い5 人工林の造成は良いことだったのか?
 問い6 外材輸入は良いことか?
担当吉江
 


2016.8.4 8.18

地域資源活用学習会 森についての6つの問い  中野昭彦(会員)

6章「森についての6つの問い」に関してまとめ、発表し議論した。
問1.森林の多面的機能を発揮させるためには?
A1・空間計画の必要性(下村彰男)
 森林の多様的機能は、「人間の生活を豊かにする」ことを目標に、都市住民の森への関わり方が広がる中で、森林の在り方を検討する空間計画の展開が必要である。
A2・多面性機能を考慮した伐出技術(酒井秀夫) 
 健全なる森林には、多目的利用に耐え得るものであると考え、多面的機能を損わない伐出技術で、木材の収穫に対して計画の立案・分析と、立地調査(土壌調査)、 成長予測、環境への影響等の森林科学の総合的な知恵と技術が必要である。
A3・森林計画制度のありかた(白石則彦)
 森林計画制度のあり方から、森林・林業の法律は階層構造であり歴史的経過の中で、林業の採算性の悪化・「儲かる林業」時代の終焉と指摘。今後の森林管理の 基本方針として、環境林として管理に委ね、人工的植栽森林の人為的管理、育林管理技術の普及、助成・公的資金の必要や税:水源税・地域基金の提起と国民的な 合意の必要である。
問2.誰が森林を管理するのか?
A1・森林管理の主体(井上真)
 森林管理は、所有者・計画作成者・実作業者、資金提供者だが、林業生産活動や山村社会は、崩壊寸前の状態である。1990年代以降森林管理に都市生活者の ボランティア活動や林業参加が行われている。所有者による管理の弱体化が進む中で、様々に主体の資金と労働力の提供が必要である。
A2・森林管理のなかのボランティア活動(白石則彦)
 森林の荒廃の中で、各種ボランティア活動が活発化している。森林ボランティアが森林管理の担い手には難しく範囲が限定するが、 小中学校の教科書から森林・林業の記述が消えた今、安くてよいものを買う「合理的な消費者」から国内外の環境を考えて購入商品を選択する 「賢い消費者」として変わっていく発端として森林・林業の理解者に期待したい。
問3.森林は経済的になりたつのか?
A1・林業の採算性と今後の林業経営
 日本林業は構造的不況である。林業振興ツールとして森林認証の取得を林業振興への3要因として提案する。しかし森林認証制度は、 製品の差別化が原点から、すべての森林を現状の窮地から救えない。今後意欲ある林業経営者への助成や不可欠、不採算森林の公的管理の委託、 多面的機能をもつ合理的なゾーニング手法等の技術支援も重要である。
問4.森林の教育利用はどうすれば成功するか?
A1・林フィールド教育の考え方
 森林教育を担う人材は、@森林林業への深い理解と教育への強い気持と伝えたい欲求が強いことが必要 A教育法・教授法の優れた技術を 持つ人材が必要。フィールド教育で子供に面白く伝える技術・興味を抱かせる技術が必要である。良好な森林の管理費用の捻出も必要である。 人材面・フィールド面で「教育」に適した環境や技術を整え、方針・計画の検討が必要である。
問5.人工林の造成は良いことだったのか?
A1・1000万haの人工林の今日的評価
 戦後の人工林は、国土の1/4の1000万haの人工林で、森林国・木材輸出国へ可能性もある。欧州のデンマーク・ドイツの事例を参考に、 針葉樹人工林の建築用材の利用や紙原料、燃料材の使用等の循環再生資源としてライフサイクルの中に活かすことが、重要である。
A2・国有林における「森林経理学論争」
 国有林管轄に成長量の低い広葉樹を伐採し成長旺盛な人工林に転換しても、将来成長量の増大が期待できるので、 「見込み成長量」として別の森林から余計に伐採してもよいとする林野庁と林業は植林から収穫まで長期間を要する産業で、 将来安定的に木材供給する使命がある。成長量を大きく超える伐採はしてはならない(保続)の論争。結果は林野庁側に展開し、 奥地天然林の森林資源も伐り尽くされた。増伐計画・拡大造林政策による転換は、貴重な天然林を失い誤りであった。 森林管理の持続性の確保と長期的な計画と政策を問われる。
問6.外材輸入は良いことか?
A1・日本林業の保護の観点から
 住宅建築で、木材価値の価格差は、外材と国産材ではわずかであるが、建築の長い工期・人件費の高騰・労働生産性低下から、 工期の短縮を目指して、外材の大ロット輸入や計画輸入、ツーバイフォー材のパネル工法で外材のシェアが拡大した。 国産材需要を確保させることは、生産・流通加工、消費に至る流れが?がり、期待できる。
 輸入品をターゲットにした助成は、国際取決めに抵触し、助成が困難である。
A2・循環型社会の観点から
 木材の8割が外材に依存し、国土の2/3が森林国で、国際競争力が弱く、外材輸入することは、アジア熱帯林諸国の 森林減少問題にも抵触する。国産材の利用は環境問題の解消になるが、市場経済の原理が阻む。バイオマス循環は、 生産と消費を一定の地域内で循環させることが必要。現在、経済の循環と環境面での循環の矛盾する社会で、 両者のバランスを取ることが必要。文化(地域文化)と文明(近代科学文明)の問題か技術倫理の問題かの関心がある。 今後地域において物質やエネルギーの循環技術やシステムを現実化させ、根本的な問題を議論する必要がある。
A3・環境と貿易の視点から
 リオの地球サミットで「森林原則表明」が合意された。林産物の自由貿易は、持続的な森林管理など環境保全上の 要件が満たされる範囲内で認められるべきとの世界の合意事項である。森林版MEA(多国間環境協定)で、 「森林原則表明」として森林条約の策定への国際的取り組み進められている。「国連森林フォーラム(DNFF)」引継ぎ、 貿易自由化の推進が森林の持続可能な管理を高めることで展開している。筆者は客観的に外材の輸入には、 @環境重視する立場から自由な外材輸入は好ましくない。A自由貿易を推進する立場からすると好ましい。 B現状では、自由貿易の立場の方が優勢であるが、最終的な判断は国際政治の動向よって決まるとの見解を持つ。

9月の学習項目

     
○9月1日
森林環境学と私 担当井村e
 森林作業研究を通じて 酒井秀夫
 森林環境学から社会を見ると 下村彰男
 実物大の実験のプレイヤーとして 白石則彦
 森との遭遇、そして夢 井上真
○9月15日
9月1日にに使用教本、担当を決めますので、15日はお休みにします。
 


2016.9.1

地域資源活用学習会 エピローグ 森林環境学とわたし  井村悦子(会員)

 エピローグでは、この本を共著された東京大学大学院農学生命科学研究科所属の4名の方がそれぞれの専門的見地から、 今後目指すところなどが語られていました。それぞれの方の主要著書・論文と語られた内容を短く纏めてみます。

○森林作業研究を通じて………………………酒井秀夫
 ・附属演習林北海道演習林長、教授
 ・『林業工学』(分担執筆、1984年、地球社)
 『林業機械学』(分担執筆、1991年、文永堂)
 林業という職業は社会に対する責任、国際的な責任も含まれ、単なる生計をたてていく手段だけではない。 自分の専門の森林作業研究は経済的にも生態的にも社会的にもそれぞれ要求される事項をテクノロジーとして 解決していかなければならない。
 林業の現場での幾世代にわたる蓄積が、理論で実際の説明がつき、予測が可能になり、最適な対処が可能になり、 個々の現場でそれが生かされ、そして大きな政策として実社会に還元されるときがある。 これは、研究の意義が認められたことであり、研究に携わって報いられるときでもある。
 理論で説明がつくと、もろもろのことがクリアーにみえてくる。学問として前進するときである。

○森林環境学から社会の動きをみると………下村彰男
 ・森林科学専攻(森林風致計画学研究室) 教授
 ・『フォレストスケープ』(共編著、1997年 全国林業改良普及協会)
  『シビック・ランドスケープ』(共編著、1997年 公害対策技術同好会)
 二次的自然環境の保全には人の手を入れることが必要であり、そのための技術、労力、そして費用が 必要なことを知ってもらうことも著者の目標の一つ。
 国土の自然環境の保全や管理は、われわれ一人一人の問題であることを理解してもらい、主体意識を持ってもらう。 これが、自然とのふれあいを促進し、自然との共生をベースにした新たな生活様式や生活文化の醸成、 真に豊かな生活の実現に結びつく。

○実物大の実験のプレーヤーとして…………白石則彦
 ・森林科学専攻(森林経理学研究室) 助教授
 ・『農学・21世紀への挑戦:地球を救う50の提案』
  (分担執筆、「エコラベルつき木材は森林を救えるか」2000年、世界文化社)
 森林認証制度の主旨は「環境にやさしく社会にうけいれられる森林管理」だが、この環境や社会への対応にも経営戦略 としての要素が多く含まれる。積極的に取り組んでいる国や企業は、社会的正義を身にまといながら、 したたかにシェアの拡大を狙っている。
 木材を消費する側もこの社会的正義に反対する理由はなく、企業や政府は認証製品を使うことで環境に取り組む 姿勢をアピールできる。この制度は、動き出すと、自立的に動いていく。
 これは、社会における実物大の社会実験である。読者はそれぞれの立場で、この実験のプレーヤーである。 役割を演じながら、展開を見守ってほしい。

○森との遭遇、そして夢………井上 真
 ・農学国際専攻(国際森林環境学研究室) 教授
 ・『熱帯雨林の生活』(1991年 築地書館)
  『焼畑と熱帯林』(1995年 弘文堂)
 研究面では、学問分野を超えた強度研究を実施すること。さらに、研究活動を専門家が独占するのではなく専門家と 非専門家との共同作業による開かれた研究を実施することを目指す。
 教育面では「楽しく、厳しく、温かく」がモットー。 教育、研究をとおして、人間と森林とのより幸せな関係に基づく豊かな社会の実現に一歩でも近づけたら本望である。

10月の学習項目

     

○10月6日、10月20日

10月から新しい教本になります。  輪講当番などは、初日に決定します。
<教本>
 「鉄で海がよみがえる」 畠山重篤著 文春文庫
  畠山重篤 「NPO法人 森は海の恋人」代表。

<著者紹介>
畠山重篤(はたけやま・しげあつ)
京都大学フィールド科学教育研究センター社会連携教授。高校卒業後、牡蠣、帆立の養殖に従事する。
家業のかたわら「森は海の恋人」を合言葉に、気仙沼湾に注ぐ大川上流の根室山へ植樹運動を続ける。
その活動は各方面で高く評価され、国内で1994年 朝日森林文科賞など、国外でも2012年国連の「フォレスト・ヒーローズ」に選ばれる。


2016.10.6 10.20

地域資源活用学習会 「鉄で海がよみがえる」  井村 淳一(会員)

 28年度、「ウッドチップ敷設による森の整備事業」長野県みらい基金殿から 「海でつながるプロジェクト2016」として、助成金をいただくことになった。
 海には直接接していない長野県は、海とどのように繋がっているのか?海産物の流通(天草と寒天、とか、 ブリ街道?)での繋がり、水を通しての繋がり、大気を通して繋がり等、色々思案してみた。私達の活動との 繋がりという観点から「森林と海とのつながり」をテーマに探している内に、「森林は海の恋人」を主催している、 畠山 重篤 氏の著作である「鉄で海がよみがえる」と言う単行本を見つけた。28年度の後半の学習会の テキストはこれを使って森林と海との関係を学習することにした。
 この本の初版は「鉄は地球温暖化を防ぐ切り札」というタイトルであったが、気仙沼湾で牡蠣の養殖を 生業とする著者は、当時北海道大学の松永勝彦教授から、「鉄が牡蠣を育む」との説明を受けて、鉄と海 の生物の関わりの追求を始めた。海の豊かさを取り戻すことを狙いに、山に木を植える運動を続けてきて、 この運動が今最も深刻な問題である地球温暖化問題解決の糸口になる(このことは、後の学習会で報告がある) ことに気づいた。
 実は、植物の光合成には、鉄が必要であること。また植物プランクトン、海藻が育つためには、その養分と なる窒素やリンがいかに豊富でも鉄がなければこれらを吸収することができない。
 しかし通常、鉄は空気中でも水や海水の中でも酸素により酸化されやすい性質がある。 一般に酸化した鉄は酸化鉄として粒子の状態で存在しているが、この粒子の状態では、植物の細胞内にとり 込むことができない。水に溶けたイオンの状態でなければ取り込めないのである。通常のイオンの状態でも すぐ酸化してしまい粒子となり、水や海水の中では沈んでしまうので、現在の海水には鉄がほとんど含まれていない。 この状況で海にイオンの状態で鉄を運び出す役割をしている物質が、森の中で生まれている。
 森林の落ち葉等が腐食し、バクテリア等で分解される過程で、フミン酸とフルボ酸を作る。 このフミン酸は土中の鉄をイオン化する。このイオン化された鉄をフルボ酸がイオンの形のまま取り込む。 このフルボ酸鉄は安定して酸化されずにそのままの形で海に運ばれる。この状態で植物プランクトンや海藻は 鉄を取り込み、養分の吸収や光合成をおこなっている。よって森林を豊にすると沢山の落ち葉ができ、 土壌が豊かになり、その過程で多量の鉄分を、河川を通じて海に運ぶことができ、これが海の生物を豊 にすることに繋がっている。
 このテキストでは、以上の原理をベースに鉄と海の繋がりについて様々な事象や地球の営みを交えて 述べており、次回以降の学習会でその詳細を学ぶことにする。

11月の学習項目

     

○11月10日

第2章 地球生命を育んだ鉄 担当下田、石田

○11月24日

第3章 鉄は温暖化を救う 担当中野
第4章 “鉄仮説”から「鉄理論」へ 担当井村(悦)


2016.11.10 11.24

地域資源活用学習会 「鉄で海がよみがえる」  石田 豊(会員)

 今年の後期は、{鉄で海がよみがえる}畠山重篤著を読んでいます。  今月の学習会は、11月10日と、24日開催の予定でしたが、皆さまご存知の通り24日は積雪があったため流れて、10日に、 第2章 「地球生命をはぐくんだ鉄」を読み合わせました。
 前半の4節、@もっとも身近な金属、A鉄は必殺運搬人、B鉄の惑星だった地球、C現在の海の鉄分濃度。については、下田英雄 さんが解説し、後半の3節、D植物の生命活動にも鉄は必要、E鉄をどのようにとりこむか、F貧鉄にならないために。については、 石田豊がまとめて発表した。
 この第2章は、本書「鉄で海がよみがえる」の中で、地球誕生46億年の歴史の中で生まれた生命にとって、鉄がどのような役割 を持っており、それが環境にどのように存在し、生命は鉄をどのように取り入れているのか?! という理論的な位置づけを紹介 している重要なポイントであるようだ。
 生命は、その活動の基本を「呼吸」によってエネルギーを得ている訳だが、呼吸とは、栄養分と酸素を結合させ(燃やし)、 排気ガス、二酸化炭素と水に変えることでエネルギーを得ている。
 また、燃料となる栄養分は、植物の光合成によって、二酸化炭素と水から、ブドウ糖と酸素に化学変化させて作られている。 呼吸とまったく逆の反応によって作られている。という中学理科レベルの基本なのだけれど。基本的な情報なだけに、ネット情報 や類書に本テキストの著者よりも詳細な理論が解説されていて、担当解説者によって紹介された。
 例えば、「植物:作物が、育つうえで、寒暖差があると、糖度が高い=栄養分の多い作物ができるのは何故か?!」ということも、 光合成と呼吸の関係で説明できる。
 一般的に、生命活動は、温度が高い方が活発になり、活動が活発=呼吸も活発。ところで、光合成は日光のある昼間行われ、 昼間はおおむね気温が高い訳だが、呼吸は一日中(=夜間も)行われる。
 そこで、寒暖差が大きいと、夜間の温度が下がり呼吸が不活性になると使われる栄養分が少なくなり、その分、作物に蓄え られる。寒暖差が小さいと、夜間の呼吸が活発となり、せっかく昼間生産した光合成の栄養分を使い込んで、作物に蓄えられ なくなる。という説明は納得できるものだった。
 今月の学習会での成果は、生命活動の本質は、呼吸と光合成の「炭素」循環によって支えられているが、そのサイクルを スムーズにコントロールするには、鉄をはじめとする微量元素(窒素、炭素、リン、カリウム、カルシウム、鉄など)が、 欠かせない。
 また、環境の中で、微量元素は、生物が利用しやすい形(=水に溶ける状態)では、かなり希少性が高く、失われやすい。
 かろうじて生態系の中で、維持されている微量元素が活用されている。一度失われると、陸地は砂漠化する危険性を はらんでいる。生態系による循環が大切なのだ。 
 本書の著者:畠山重篤氏のいう「森林は海の恋人。」というスローガンを確認したい。

12月の学習項目

     

○12月8日

第3章 鉄は温暖化を救う 担当中野
第4章 “鉄仮説”から「鉄理論」へ 担当井村(悦)、吉田
第5章 実証された鉄の環境利用 担当定成

○12月22日

第5章 実証された鉄の環境利用(続き) 担当吉江
海藻で地球環境を改善し、バイオ燃料も作れる 担当井村(淳)


2016.12.8 12.22

地域資源活用学習会 「鉄で海がよみがえる」  井村 悦子(会員)

 本教材も「第4章“鉄仮説”から「鉄理論」」にはいりました。
マーチンの鉄仮説
 1989年米国カリフォルニア州のモス・ランディング海洋研究所所長のジョン・マーチンが、海の植物プランクトンと鉄の関係について、広大な実験を始めた。 彼は「われにタンカー半杯ほどの鉄を与えよ。しからば、地球を氷河期に戻してみせよう」と提言しており、その信念から海洋への鉄散布の実験を開始した。  現在は、彼の言葉のもとに真剣に研究に取り組んでいる学者も多いが、当時は冷ややかに扱われていたようだ。
 海洋学者の間では、“南極パラドクス(逆説)”という言葉が知られているが、南極海は、植物プランクトンの生育に必要な栄養塩が世界一豊富なのに プランクトン自体の数は少ない。ほかに、太平洋の赤道付近とカナダ西岸のアラスカ湾でも同じ現象が起きていた。
 マーチンは、これら冨栄養塩・貧葉緑素の海域には、ほかの微量金属にくらべて鉄分がとくに少ないことを測定によって発見し、それまでの研究の植物 プランクトンの生育には微量金属が必要であるという成果と結びつき、鉄散布という実験にたどり着いた。
植物プランクトンは二酸化炭素を固定化する。

 樹木の葉と同じように、植物プランクトンは葉緑素を持ち光合成をしている。すべての植物プランクトンが光合成によって発生させている酸素の量は 地球上で発生している酸素の約半分を担っている。その作り出す酸素の原料は、海水や真水に溶け込んだ二酸化炭素である。そのため、植物プランクトンは 酸素の供給、二酸化炭素を固定化するという、温暖化防止に貢献する二つの大きな役割を果たしている。
 大量のプランクトンの死骸や排泄物が沈むさまは海の中に降る雪のようで“マリンスノー”と呼ばれる。海ん雪は固定化した二酸化炭素という見方もできる。 こうして、炭素が海の底に沈んでしまうと簡単には二酸化炭素は発生しない。炭素が海底に沈めば、沈むほど地球上の二酸化炭素が減ることになる。 このサイクルは添付の図を参照ください。

図

 私の担当はここまでで、この後、逆に海の底から溜まった炭素を含む有機物が海面近くまで上昇する現象「湧昇流」の話に移っていきます。

1月の学習項目

     

○1月12日

第6章 海藻で地球環境を改善し、バイオ燃料も作れる(後半) 担当南波
第7章 ハマスレー鉄鉱山に35億年前の大地を訪ねて(前半) 担当本村

○1月26日

第7章 ハマスレー鉄鉱山に35億年前の大地を訪ねて(後半) 担当下田
文庫版あとがき 担当石田


2017.1.12 1.26

地域資源活用学習会 「鉄で海がよみがえる」  南波 一郎(会員)

 事務局だより1月号に記載された鉄仮説を鉄理論にすべくマーテインは海洋への硫酸鉄散布実験を実施し仮設通り植物プランクトンの増加、同死骸の海底への沈下 (マリンスノー)を確認した。これで鉄散布が炭酸ガスを固定した事が検証され鉄仮説は鉄理論として認められた。1993年から2005年まで世界各地の海洋で 同様の実験が12回実施され効果も再確認された。国内でも近海、河川の鉄散布による植物プランクトン増加を利用し生物環境改善の実験が多々実施された。
これにより食物連鎖が進行し海藻、魚介類の明らかな増加が確認されている。
海洋への大々的な鉄散布は地球温暖化対策の切り札と期待されたが2005年以降は実験が途絶えている。
この理由が良く判らなかったのでネットで検索した結果、 下記が実相のようである。

T。 鉄散布効果が期待したより少なそうである。
@ 植物プランクトンが光合成するのは海面近くだが散布された鉄の一部はそのまま沈んでしまい炭酸ガス固定に寄与しない。
A 植物プランクトンの一部は海中生物に捕獲され植物循環に組み込まれてしまい海底に沈下せず炭酸ガス固定に寄与しない(長期的観点での効果は不明ではあるが)。
U。

大々的な鉄散布の地球環境への影響が解明されていない。

@

商業目的で鉄散布をするケースが表われ、これらに何らかの規制をしないと環境への影響が判らない現状では問題だとの環境団体等からの声が大きくなった。
A

上記に連動し2008年に商業的海洋肥沃化行為(養殖や人工漁礁を除く)はロンドン条約(生物多様性条約含む)の精神に沿って現在の知見下では不許可となった。
合法的な科学研究目的の海洋肥沃化(鉄散布含む)はケースバイケースで許可する事となり実質的に鉄散布へのハードルが大変厳しくなった。
従って鉄散布は期待先行で先走った感が否めず、今後は腰を据えて環境への影響を含め進める事になろうが科学者達は期待は捨てていないようだ。

他に下記の記述もあるので紹介しておきます。
地球温暖化対策として化石燃料に代わるバイオエタノールが注目されているが殆どはトウモロコシなど食料を原料としており食料不足の現状下で問題が多い。 木材は分解の困難なリグニンがあるので海藻を利用する事を筆者は薦めている。森を整備すればフルボ酸鉄が河川経由で海に供給され海藻の増産が可能である。 海藻の一種であるホンダワラはウラン、ヨウ素、レアメタルが含まれうまく採取が出来れば1石2鳥である。

注)下線部は畠山重篤氏の「鉄で海がよみがえる」には記載されていません。私が調べた内容です。

今年度の輪講は終了です。
2月または3月に、講師をお呼びした講演会を予定しています。 ただ今、演題、講師を検討中で、決まり次第お知らせします。

2016.6.2