H30年度 事業計画・報告

学習会 レポート  (H30年度)


月に2回実施している学習会からの情報発信レポートを連載します。


2018.5.10 5.24

~森林を良く知ろう~
 29年度に渡辺一夫氏の樹木の生き残り戦略の著書3編の内2編を学習しました。30年度前半には残りの1編(樹木19種)を学習します。
そして、学習した代表的な樹木の生育地に出向き学習する機会を持ちます。後半には、森林の生物多様性の学習に進めます。
 毎月、本ぺージで毎月一種づつ、学習した樹木を紹介します。

<使用テキスト>
 「アジサイはなぜ葉にアルミ毒をためるのか」 渡辺一夫著 築地書館
 他、生物多様性の教材

     
5月の学習項目は以下の通りでした。
○5月10日
進め方の説明、輪講講師決め
ネムノキ~働くために眠る~ 井村j
○5月24日
ガクアジサイ~森を捨てる技~
ヤマグルマ~変わり者の魅力~
野澤
ドロノキ~攪乱の歴史を伝える~
ヤマツツジ~火の島が生んだツツジ~
担当吉江

ネムノキ ~働くために眠る~  井村 淳一(会員)

ネムノキ
・マメ科 ネムノキ亜科 落葉高木 樹高10m位 陽樹で荒地に最初に侵入する先駆種
・分布:イラン、アフガニスタン 中国、朝鮮半島 日本は本州 四国 九州
・葉は2回 偶数羽状複葉
 花は頭状花序的に枝先に集まって咲く
 夜になると葉を閉じる就眠運動をする。これが名前の由来になっている。
・花:淡紅色でオシベが長く ブラシのような花
・果実:扁平で細長い豆果 長さ10cm程度の豆状の果実
・樹皮:灰褐色で平滑。いぼ状の皮目がみられることがある。

美女にたとえられた花
・松尾芭蕉が秋田県南部の象潟で詠んだ俳句
 “ 象潟や 雨に西施が ねぶの花 ”
  西施(せいし):中国の春化時代に生きた絶世の美女のこと。

目立つオシベで虫を呼ぶ

・ブラシの毛を広げたような独特の花で、毛の根元は白く、毛先がピンク色で毛の先端に黄色い葯がついている。ネムノキの花には虫を引き付けるような花弁がない。
その代わり、長くて色鮮やかなオシベを沢山つけて虫を呼んでいる。
メシベは複数のオシベの中に混じって存在するが白くて目立たない。オシベが役割を終えて落ちる頃目立つようになる。

メムノキ
・頂生花:ネムノキは虫たちに花粉を運んでもらう報酬に蜜を提供する。
ネムノキの花は沢山のオシベが数十本づつ束ねられていて、それらの束が集まってブラシのようになっている。
蜜はブラシの毛の束の中で、一つだけオシベが中ほどで合着し筒状になっているもの(これを頂生花という)の底にある。他の束は側生花という。

緑化のために使われる
・ネムノキは塩害に強く、秋田県や山形県の海岸沿いの砂丘で防風林として古くから使われている。
・ネムノキはマメ科の木で根には根粒菌が共生していて、やせ地でも生きていける。
 また落葉には養分が含まれているので周りの土を肥沃にする。

河原にも多い先駆種
・河原はネムノキの得意な生育場所である。果実が豆果でそれを風で飛ばしたり、川に流すことにより遠くまで散布し、明るい場所で子孫を残すたくましい木である。

一日のリズムを持っていた
・ネムノキは夜になると葉をたたんで垂れ下がる性質がある。この様子が眠っているようなので「ネムノキ」の名が付いたという説がある。
・このような葉の開閉運動を「就眠運動」と呼ぶ。この仕組みは葉の付け根に少し膨らんだ部分(葉沈という)で、細胞の内部圧力(膨圧)を変化させて葉の角度を変えている。
・ネムノキの就眠運動は単に光に反応しているだけではなく、起きる、眠るという1日のリズム(概日リズム)があり、これに従って葉を開閉する。この概日リズムをコントロールしているのが体内時計で、就眠物質と覚醒物質があり昼間は覚醒物質が沢山でて、夜間は就眠物質が増える。

一日のリズムを持っていた
・ネムノキは夜になると葉をたたんで垂れ下がる性質がある。この様子が眠っているようなので「ネムノキ」の名が付いたという説がある。 何のために葉をたたむのか
・葉をたたむ目的は、乾燥よけだと考えられている昼間でも気温が非常に高い日は、葉を閉じていることがある。これも乾燥を避けるためであるが、光が強すぎて葉が傷むのを防ぐためらしい。
 (過剰な光を浴びると葉の細胞の中の活性酸素が発生し、葉緑素を分解してしまう。同じマメ科のフジやクズ等も同様に葉の角度を変える)
・1日のリズムを保つことは重要なことで、昼間は光合成を行い、夜は蓄えたデンプンを分解して代謝や成長をおこなっている。このリズムを維持することが重要。


        
6月の学習項目
○6月8日
八島が原湿原の観察 担当 井村e、黒田
○6月21日
ミヤマハンノキ~破壊を創造に変える~ 担当 南波
ズミ~変えるために生きる~
ウラジロガシ~渓谷を友として~
担当 石田


2018.6.8 6.21

6.8 八島湿原の観察    担当 会員(井村悦子、黒田キミ)

 今年は、昨年から学習してきた樹木を生息している現地で観察することになりました。
 第一回目は八島が原湿原です。八島湿原は標高1632mの高層湿原です。湿原の中には樹木は余りありませんが、湿原を取り囲むように生息しています。
 市民の森で見かけるアカマツ、ズミなどの樹木も樹形は大分違います。
 地元のメンバーから、昔と比べて湿原が乾いてきているような気がするという感想もありました。木道の下にはイタヤカエデの実生なども見られ、周辺の樹木が入り込んで樹林化していくのだろうかと感じられました。学習してきた樹木の知識を確認しながら、春の湿原歩きを楽しみました。

サラサドウダン(更紗灯台)
サラサドウダン
(更紗灯台)

ミズナラ(水楢)
ミズナラ(水楢)

ノリウツギ(糊空木)
ノリウツギ(糊空木)

レンゲツツジ(蓮華躑躅)
レンゲツツジ
(蓮華躑躅)

ツルウメモドキ(蔓梅擬)
ツルウメモドキ
(蔓梅擬)

ハリギリ(針桐)
ハリギリ(針桐)

イヌエンジュ(犬槐)
イヌエンジュ(犬槐)

カントウマユミ(関東真弓)
カントウマユミ
(関東真弓)

アカマツ(赤松)
アカマツ(赤松)

ズミ(酢実)
ズミ(酢実)

アケビ(木通)
アケビ(木通)

ダケカンバ(岳樺)
ダケカンバ(岳樺)


     
7月の学習項目
○7月12日
マテバシイ~昭和の夢の跡~
カナメモチ~赤くなるのは誰のため~
担当 定成
ハゼノキ~油を売って生き残る~
イスノキ~いつの間にか繰られて~
担当 黒田
○7月19日
モチノキ~姿かたちはつくられるもの~
アカエゾマツ~奇跡を生んだ忍耐力~
担当 井村e
ウラジロモミ~大きな大地に助けられて~
ホルトノキ~危機に瀕する名木~
担当 矢崎


2018.7.12 7.19

モチノキ ~姿かたちはつくられるもの~  井村 悦子(会員)

モチノキ
 ○モチノキ科モチノキ属 ○常緑高木 〇雌雄異株
 ○分布:本州、四国、九州、南西諸島、台湾、中国中南部
モチノキをめぐって、昆虫と鳥と樹木の間に複雑な関係が繰り広げられていた。

古くから鳥もちを採った木
主に暖地に分布する常緑樹で、冬でも常緑の厚い葉を茂らせ、刈り込みに強いので庭や公園、屋敷の周りの生垣に用いられる。
名前は、「鳥もち」に由来。樹皮をはがして水にひたして粘りのある鳥もちを作り、長い竿の先につけ鳥にくっつけて捕まえ、観賞用や食料にした。
・古くは万葉集に「もちどりの」という句があり、離れにくいさまを、鳥もちに引っかかった鳥に例えている。
・京都、室町時代には鳥を捕獲する専門業者(「鳥刺」と呼ばれる)がいて、武士、貴族を中心に鳥を飼うことが広まった。
・江戸時代になると、庶民にも一大ペットブームが起こり、鳥の飼育は人気があった。

海にそって広がった木
・モチノキの自然分布は本州、四国、九州のおもに沿岸部。冬温暖な海辺で生育しやすい。海辺の波しぶきに含まれる塩分も、クチクラ層というワックスの層でコーティングされた葉は塩分の侵入を防ぐ。
・暖地性の樹木であるが、東北地方の日本海側にも分布し、北限は山形県の酒田市の飛島。飛島は暖流の対馬海流で冬でも比較的温暖。飛島のモチノキは本土から鳥によって種子が運ばれ定着。
・飛島対岸の山形県遊佐町にある天然記念物に指定されている木がある。天保14(1843)年、今の持ち主の祖先が、庄内藩の命で、今の千葉県の印旛沼の疎水工事に出役(しゅつやく)した時記念として持ったもの。

鳥に種子を散布してもらう
雌雄異株だが、株単位に「性転換」をして雄株が雌株になったり、雌株が雄株へ変わったりするという。
実は直径1cm程で実に4つの種子が入っている。実は大型の鳥ヒヨドリなどが食べ移動して糞をする。
モチノキのタネは休眠能力を持ち、すぐに発芽せず、頭上が明るくなるまで待つことが出来る。

種子散布を邪魔する迷惑な寄生虫たち
・ムクドリやヒヨドリはモチノキと共生関係にある大事なパートナーだが、ミバエの仲間はモチノキの果肉に卵を産み、孵った幼虫は果肉を食べまくり実の中を糞だらけにする。
・コバチの仲間「モチノキタネオナガコバチ」は、夏に発育中の実に産卵し幼虫は種子の中で冬を越すが、このコバチはモチノキの実の色を操作し鳥の捕食を避けている。コバチは実を赤くならないよう何らかの植物ホルモンのような物質を分泌している可能性があるという。

産卵を妨害して反撃するモチノキ
モチノキもコバチにやられっぱなしではない。
・花粉を受粉していなくても種子が形成され、果実も成熟する。未授精の種子はすべての種子の3割にも達する。未授精の種子は子孫を増やすことに何ら貢献せず、コストだけが掛かっている。 コバチは受精した種子にだけ産卵するので、産卵管を苦労して挿入しても未授精の種子だと産卵せず別の種子を探す。モチノキはコバチに無駄な労力を掛けさせている。
・実を大量につければ鳥を誘引する宣伝効果がある。

雪に適応して進化したヒメモチ
モチノキの仲間のヒメモチは、海辺から離れ内陸で低木に進化した。
・積雪の多い雪国では低木が有利。雪に埋もれれば、低温と風による乾燥を回避でき、雪の下は零度以下にならず、湿度100%。
・雪に埋もれ地面に押し付けられ、接した幹から根が生えて新たな株(クローン)をつくる「無性生殖」(=「伏状更新」)で増えることが出来る。

海辺で生きる高木のモチノキ、低木として雪に適応して生きるヒメモチ、姿も生き方も違う彼らを見ていると、樹木が潜在的に持っている姿形や性質を変える能力に驚かされる。


     
8月の学習項目
○8月10日
麦草峠近辺 観察  担当 井村
○8月23日
エゾマツ~大地にうごめく見えざる力~ 担当 井村e
トドマツ~死が支えている生命~


2018.8.10 8.23

8.10 麦草峠付近の観察    担当 会員(井村淳一、井村悦子)

 8月9日 学習会のメンバー5人で麦草峠周辺の樹木の植生を調査にでかけました。
 渡辺一夫先生の樹木の生き残り戦略三部作で学習した樹木の内、トウヒ、シラビソ、オオシラビソ、ツガ等の群落の林の様子を観察してきました。麦草峠の駐車場から白駒の池に至る道は、ツガを中心にトウヒが混じる林を抜けると、大きな岩が重なる道に入りますが、ここは、ハイマツが一面に広がり、その中にゴヨウマツが混じっています。ところどころにサワラが侵入しています。
 白駒の池駐車場から白駒の池へ向かう道は、最初はツガの群落が続き、その林はシラビソの群落に変わって池まで続いています。その群落の中の下層には、ツガの群落にはツガの稚樹が、シラビソの群落にはシラビソの稚樹が一面に密生していて、次世代への交代のために待機しています。それらの稚樹の栄養は朽ちた倒木が補っている様子が良く観察できます。
 白駒の池の周回には、ツガ、シラビソの群落(もちろんダケカンバも混じっていますが)の中には下層に石楠花、ドウダンツツジ等の矮小樹が密生しています。中にはミズメが結構混じっていることが分かりました。
 周回を終えて、麦草ヒュッテまで戻り、昼食後、メルヘン街道を渡り雨池へ向かう道の途中に地獄谷があるので、その見学をしてきました。さすがにもう雪は残っていませんでしたが、気温はかなり低く寒い位でした。岩陰のヒカリゴケを観察した後、麦草峠の駐車場に戻り、観察会を終えました。
 14年前に見た白駒の池への道は、コケが密生してグリーンの色が見事でしたが、気候温暖化のせいか、コケの広がる林床は乾燥が進んできていてコケの色も褪せてきている様子が判ります。ササの侵入も目立っていて少し寂しい気持ちになりました。

ゴヨウマツ(五葉松)
ゴヨウマツ(五葉松)

ハイマツ(這松)
ハイマツ(這松)

コメツガ(米栂) コメツガ(米栂)
コメツガ(米栂)

シラビソ(白檜曽) シラビソ(白檜曽)
シラビソ(白檜曽)

オオシラビソ(大白檜曽) オオシラビソ(大白檜曽)
オオシラビソ(大白檜曽)

トウヒ(唐檜) トウヒ(唐檜)
トウヒ(唐檜)

ミズメ(水目) ミズメ(水目)
ミズメ(水目)

オガラバナ(麻幹花) オガラバナ(麻幹花)
オガラバナ(麻幹花)

ミネカエデ(峰楓) ミネカエデ(峰楓)
ミネカエデ(峰楓)

ガンコウラン(岩高蘭)
ガンコウラン(岩高蘭)

スノキ(酢の木)
スノキ(酢の木)


     
9月の学習項目
○9月13日
 本年前半では、昨年から実施している渡辺一夫先生の樹木の生き残り戦略3部作の3番目の著作である、「アジサイは何故葉にアルミ毒をためるのか」の学習を終えました。
 後半は「地質、地形と植生との関係」に関する本をテキストとして取り上げることになり、現在目的にあったテキストを調査中です。 決まり次第参加者の皆さんにお知らせして9月13日(木)から後半の学習会を再開する予定です。

○9月13日
1.氷河時代の植物群 礼文島・東ヌプカウシヌプリ 担当 井村j
9月27日
2.火山と永久凍土 大雪山 担当 石田
3.端正な氷河地形と豊かな高山植物 日高山脈 担当 矢崎


2018.9.13 9.27

2. 火山と永久凍土 【大雪山】    担当 石田 豊(会員)

 本章を読むためだけでなく、本書全体を読むために、火山、マグマの基礎知識を整理します。
<地球の構造>
 ・地球の大きさ、直径:約12,750km
  赤道半径:約6378km 極半径: 約6356km
 ・地球の構造
 ・地殻 (プレート) :地表面~35km
 ・モホロビチッチ不連続面
 ・マントル:35km~670km(上部マントル)
      ~2,900km(下部マントル) 
 ・コア  :2900km~5,150km外核
      ~地球の中心 内核 

<各層の性質>
コア:
外核と内核に分かれる。外核は高温の液相で、鉄、ニッケルが主成分。自転や対流により金属流体の動きにより、電流が発生し、地球磁場が起こる。内核は、約400万気圧の高圧の下では、鉄などは固相となるため、外核から鉄、ニッケルが沈殿したものと考えられる。
マントル:
ケイ酸塩鉱物を主成分とするマントルは、高温であるが、高圧力の下では固相で存在する。固相ではあるが、コアの熱でゆっくりと対流を起こす。地殻に近い上部マントルでは、上下の対流は起こらず、地殻と一体化したプレートテクトニクスという水平運動を起こす。
地殻:
地球の固体表面を指し、マントルと同様に主成分はケイ酸塩鉱物でできている。地球表面を10数枚に分割しているプレートは、組成差や構造から大陸プレートと海洋プレートに分類される。海洋プレートは玄武岩質で、厚さは平均6km、密度3.0g/cm3
大陸プレートは花崗岩質で、厚さ20~70km(平均35km)、密度2.8g/cm3と厚く軽い。
プレートテクトニクス:
海洋プレートは、中央海嶺で生産され、マントル対流によって引っ張られて中央海嶺から広がっていく。大陸プレートは海洋プレートより相対的に軽いので、海洋プレートはぶつかると大陸プレートの下に沈み込む。

<マグマの成因>
マグマとは、地球や惑星を構成する個体が溶融したものである。地球のマントルや地殻は、主にケイ酸塩鉱物でできているため、マグマも一般的にはケイ酸塩鉱物の組成を持つ。(稀に炭酸塩鉱物を主体とするマグマも存在する。)
マグマは液体成分だけではなく鉱物結晶を含む。
また、主成分であるケイ酸(二酸化ケイ素)の含有量  によって、4種類に分類される。
 ①二酸化ケイ素が最も少ないものが玄武岩質マグマ(45~52%)
 ②続いて安山岩質マグマ(52~63%)
 ③デイサイト質マグマ(63~70%)
 ④最も多いのが流紋岩質マグマ(70~77%)である。
二酸化ケイ素が少ないマグマほど温度が高く、粘度が低く流動性がある。玄武岩質マグマは温度は1000~1200℃で、粘度は100~数100ポアズだが、流紋岩質マグマは600~900℃で、数千万~数億ポアズである。(ポアズは、粘性の単位)
マグマの成因:解りやすさを優先して考えれば、マグマはマントルの溶融したものといえるが、基本的に  マントルは高圧力下で、固相で存在する。マントルが溶融する条件は、一つはより高温な場所、中央海嶺では、より深部の高温なマントルが上昇し高温になる。→ハワイなど。
もう一つは、水分が含まれるとマントルの成分の溶融温度が低下する。要するに海洋プレートが大陸プレートの下に潜り込むところ。→日本海溝周辺など。

<マグマと火成岩>
岩石の基礎知識:地殻=大地の岩石をでき方から大別すると、2つに分類される。
1つは火成岩であり、マグマが冷えて固まったものである。  もう1つは堆積岩であり、岩石・土砂が海底に堆積し地層となったものが、長年の圧力で固まってできる。
両者の特徴は、火成岩ではマグマが冷えて固まる時に成分が結晶化してできるので、構成する粒が角ばっている。対して堆積岩では、地層に堆積する土砂は川の流れで上流から下流に運ばれる際に削られるので構成する粒は丸くなる。(水成岩と呼ばれた)、(火山灰が固まった凝灰岩では、粒は角ばっている。)
いったん成立した岩石の地層に、マグマが貫入し、その高温と高圧力で岩石の粒が一度融けて再結晶化したものを変成岩という。

<マグマの性質と火成岩の分類>
マグマは、高温のマントル層に近い深部で発生し、地表近くのマグマ溜まりに上昇し、冷やされる。
すると、融点の高い鉱物(橄欖石や、輝石)が先に析出し、マグマの液体成分である二酸化ケイ素の含有量が上がっていく。一方、高温のマグマは、周囲の地層の岩石や金属を融かして取り込む。
二酸化ケイ素は四面体の原子配列を持ち、四面体の頂点にある酸素原子は隣の四面体と共有されることにより、編み目構造となり粘性が増す。二酸化ケイ素の多いマグマは流動性が小さくなる。
一方、二酸化ケイ素の含有量が少ない場合や、金属(マグネシウム、鉄、カルシウムなど)が含まれると四面体の連続性が失われて粘性が下がり、流動性が増すマグマとなる。
 ※二酸化ケイ素(SiO2)の純粋結晶で透明なものは水晶となる。若干の不純物を含んだり、小さな結晶の集合体で白色な物は、石英となる。
要するに、二酸化ケイ素含有量が多くなると、融点は低くなり、粘性は高くなり、色は白色となる。
流紋岩質マグマや、デイサイトマグマがそれにあたり、火山で噴出した時には、流れにくく溶岩ドームとなる。
逆に、金属や橄欖岩、輝石などは有色で、二酸化ケイ素含有量が少なくなり、金属や有色岩石含有量が多くなると、融点が高くなり、粘性は低くなり、色は黒っぽくなる。玄武岩質マグマや、安山岩質マグマとなり噴出すると、流れやすく溶岩台地などを形成し、黒っぽくなる。
節理
節理とは、マグマが冷却して岩体化する時に現れる規則的な形状をいう。
 柱状節理:玄武岩質の岩石に観られ、六角柱、または五角柱(稀に四角柱)状に発達する。
      玄武洞
 放射状節理:玄武岩質に観られ、割れた岩体が放射状になっている。
      根室車石
 板状節理:安山岩質の岩石に観られ、マグマの冷却面と平行に板状に発達する。
      鉄平石(長野)
 方状節理:花崗岩のような深成岩に観られる、岩体が直方体状になった節理。
      寝覚ノ床
火成岩の分類 

元になるマグマの性質

流紋岩質マグマ

デイサイトマグマ

安山岩質マグマ

玄武岩質マグマ

 

マグマの粘性

粘っこい←――――――――――――――――――――――――→さらさらしている

 

二酸化ケイ素の
含有量

多い←――――――――――――――――――――――――――→少ない

 

マグマの融点

低い←――――――――――――――――――――――――――→高い

 

色見

白っぽい←――――――――――――――――――――――――→黒っぽい

 

地表近く(浅い)火山岩

流紋岩

 

安山岩

玄武岩 

速く固まる

地下深く(深い)深成岩

花崗岩

 

閃緑岩

斑レイ岩 

ゆっくり固まる


     
10月の学習項目
○10月4日
4.ブナ林が貴重である理由 白神山地 真昼山地 担当 本村
5.森林限界がなぜ低いか 早池峰山 担当 南波
〇10月18日
6.コマクサと樹林と湿原と 岩手山 八幡平 担当 黒田
7.残雪そして偽高山帯 月山 鳥海山 担当 野沢


2018.10.4 10.18

5. 森林限界がなぜ低いか 【早池峰山】    担当 南波 一郎(会員)

1.山の紹介:
 岩手県にある標高1917mの山。北上山地の最高峰で日本百名山、新日本百名山、花の百名山、新・花の百名山及び一等三角点百名山に選定されている。六角牛山、石上山と共に「遠野三山」と呼ばれる。山頂は宮古市、遠野市、花巻市の3つの市の境界となっている。
 9月末時点で中腹以上は紅葉の見ごろである。小田越えコースのみ登山可能。

2.特徴:
 森林限界が1300m(この緯度では普通2000m)が異常に低く高山帯が広く、従って高山植物が豊富である。

3.何故森林限界が低いか:
 岩塊斜面が1300m迄押し寄せていて土壌が悪い故に針葉樹林帯の上昇を食い止めている。基盤のかんらん岩が氷河時代に凍結破砕作用で壊され下方に移動した為である。
 かんらん岩は超塩基性だが、そうでない花崗斑岩の蝶が岳でも同様故、岩の性質が原因ではない。
■岩石の分類  地殻を構成する岩石は、その成因にもとづいて、火成岩、堆積岩、変成岩の3種類に大別されます。
 火成岩は、高温の珪酸塩溶融体であるマグマが冷却固結することによって生成されます。
 堆積岩は、既存の岩石やその他の物質が風化作用、運搬作用、沈積作用、続成作用などの過程を含む堆積作用を受けることによって形成されます。
 変成岩は、いったんできた岩石が熱や圧力などの変成作用を受けて組織や鉱物組成が変化することによって形成されます。
 火成岩は生成された条件に応じて、火山岩(マグマが急速に冷えて固結)と深成岩(マグマがゆっくり冷えて固結)に分類されます。また珪酸塩の含有量に応じて、酸性岩、中性岩、塩基性岩、超塩基性岩に区分されます。かんらん岩は超塩基性、花崗岩及び花崗班岩は酸性。

4.森林限界と垂直分布帯:p44-p45参照
 日本の森林限界は他地域より1000m低い理由は岩塊斜面、多雪、氷河の影響か。

5.ハイマツ帯:
 高山帯にハイマツが優占しているのは日本の特徴。ハイマツは東シベリアが本拠地だがカラマツ(亜高山帯)の林床に生えている。これは岩塊斜面に針葉樹が侵入出来ないため。あと数千年たてば土壌が形成され針葉樹が侵入しシベリアのように林床植物になると思われる。高山帯にハイマツが広がったのはホシガラスによる種子散布の効果が大きい。

6.特徴的な植生:
 かんらん岩(変性岩の蛇紋岩はかんらん岩が編成したもの)はアルカリ性が強くウスユキソウ等めずらしい植物を産する(蛇紋岩植物)。アポイ岳、至仏山、白馬岳、谷川岳、北岳。
 〇キク科―ウスユキソウ族 欧州にはエーデルワイス(セイヨウウスユキソウ)1種に対し日本には12種あり(ハヤチネ、ミヤマ、ミネウスユキソウ等)大半は蛇紋岩地域に分布する。

7.至仏山:
 蛇紋岩とかんらん岩から成るのでは早池峰山と類似植生である。尾瀬の反対側の燧岳とは対象的である。蛇紋岩は風化すると粘土となり水持ちが良く湿原が発達する。


     
11月の学習項目
○11月1日
8.雪崩がつくる滑り台 谷川岳、御神楽岳、越後三山 担当 吉江
9.湿原と自然保護 尾瀬ヶ原、戦場ヶ原 担当 石田
〇11月15日
10.風食地形と植物相 平標山 羽後旭岳 担当 中野
11.特異な地形が生み出す植物群 妙義山、清澄山 担当 黒田


2018.11.1 11.15

11. 特異な地形が生み出す植物群 【妙義山・清澄山】    担当 黒田 キミ(会員)

妙義山
 妙義山は群馬県甘楽郡(かんらぐん)下仁田町、富岡市、安中市の境界に位置する日本3大奇景の一つとされる山である。いくつものピークから成り、最高峰は表妙義稜線上の相馬岳(1103.8m)で、また、妙義山系全体の最高峰は、裏妙義にそびえる谷急山(1162.1m)となっている。
 妙義山は、デイサイト溶岩、凝灰岩、礫岩でできている。今から300万年前までの本宿カルデラを形成した火山活動があり、南西側にある荒船山と同時期に形成した溶岩体である。その後、周囲の柔らかい堆積層が侵食され、溶岩の岩体が露出したと考えられている。この険しい岩峰の尖った荒々しい山容の景観から日本三大奇景の一つに数えられており、また、国の名勝に指定され、日本百景にも選定されている。


<参考>(Wikipediaより)
* 本宿(もとじゅく)カルデラ
 群馬県甘楽郡下仁田町にある、直径約10kmのカルデラ。凹地が残っていないことから本宿コールドロンとも呼ばれる。長野県東部、群馬県西部から秩父、丹沢にかけてのかつての火山フロントに沿う第三紀鮮新世(およそ300万年前まで)の噴火活動により形成され、東日本に残る火山地形としては古いものに当たる。荒船山と妙義山の岩体は、この時の隆起と貫入したデイサイト溶岩が、その後の浸食により、露出し、メサとなったものである。
 メサ:差別浸食によって形成されたテーブル状台地のことで、「卓状台地」とも呼ばれる。
   さらに浸食がすすみ孤立丘となったものは「ビュート」と呼ばれる。

<参考>「火山学者に聞いてみよう-トピック編」
  高橋正樹(茨城大学・理学部・地球生命環境科学科)より
 荒船山周辺は本宿火山性陥没地とよばれており、第三紀後期中新世の一種のカルデラ火山の跡です。荒船山を東山麓の群馬県下仁田町相 沢付近から登ると、下から順にデイサイト貫入岩体→安山岩溶岩→安山岩質凝灰角れき岩→湖成層(砂岩・泥岩・凝灰岩)→安山岩質凝灰角れき岩→安山岩溶岩→安山岩 質凝灰角れき岩→湖成層が(貫入岩を除いて)ほぼ水平に重なっています。最上位の 平坦な尾根は安山岩溶岩からなっており、三角点のある山頂は、デイサイト質溶結凝 灰岩から構成されています。荒船山が航空母艦のように山頂が平坦なのは、安山岩溶 岩が侵食に強かったためです。こうした地形のことをメサといいます。
 本宿コールドロンの大きさは直径が約10km強あり、多角形型の輪郭をしています。 ちなみに、カルデラとは火山性の凹地形ですが、かつて陥没したカルデラの中味が隆 起して現在は山になっているような場合、凹地形ではないのでカルデラとはよばずコールドロンと称することが一般的です。本宿コールドロンでは、最初にマグマ溜りの 突き上げによって地表が隆起し、その結果張力が働いて陥没が生じ、その後に陥没地
内にマグマが噴出して各種の火山岩類が形成されたと考えられています。こうしたタ イプのカルデラのことを本宿型カルデラとよびます。この地域は本宿型カルデラの模 式地なのです。最初にできた陥没地の周囲の崖の下には一種の崖錘れきが溜まりまし たが、この崖こそが『陥没の壁』に他なりません。長野県側から荒船山に登る場合は 、まずこの『陥没の壁』を越えてかつてのカルデラの中へ入って行くというわけです。

清澄山
 清澄山の主峰は、標高377mの妙見山で、千葉県で3番目に高い山である。清澄寺(せいちょうじ)本堂付近は約310mである。南房総国立公園にふくまれており、北斜面に暖帯性、南斜面には亜熱帯性の植物が自生する。また、安房、上総の分水界であり、養老川や小櫃川(おびつがわ)も清澄山を源流とする。地質学的には新第三紀に形成され、泥板岩や砂岩で構成される。

<参考>(ウイキペディアより)
分水界:異なる水系の境界を指す地理用語。
  山岳においては稜線と分水界が一致していることが多く分水嶺(ぶんすいれい)とも呼ばれる。


     
12月の学習項目
○12月6日
12.ブナ林の変異 丹沢山、三頭山 担当 本村
13.新しい火山ゆえに 富士山、宝永山 担当 池田
〇12月20日
14.縞枯れ現象の不思議 八ヶ岳 担当 定成
15.二重になった山稜 雪倉山 担当 野沢
 12月から学習会の場所が変わります。
 ゆいわーく茅野 102会議室です。


2018.12.6 12.20

12. ブナ林の異変 【丹沢山・三頭山】    担当 本村 光子(会員)

枯れる丹沢山のブナ
 丹沢山は東京都民・神奈川県民には親しみ深い山で、主峰丹沢山のほか、塔ヶ岳、鍋割山、蛭ヶ岳、檜洞丸などいくつかのピークからなり、丹沢山地と呼ぶべき山々の連なりである。
ここに太平洋側の山地としては珍しくまとまったブナ林が残されている。ブナはもともと日本海側の多雪山地に生育の本拠地をもつ樹木で、雪のある湿潤な気候、ふかふかした厚い土壌を好む。冬に乾燥する太平洋側の山地では生育が悪く、ミズナラなどの樹種と混じり、雑然とした森林を作ることが多い。 ところが丹沢山地では標高1000メートルを超える部分を中心に純林に近い美しいブナ林がある。
 このブナ林に異変が生じている。鍋割山や塔ヶ岳など表丹沢の稜線部を中心に、ブナの巨木が次々と枯れ始めた。枯死の原因は何か?主稜線の北側のブナ林ではほとんど被害がないことから、湘南地域の車や工場から出る排気ガスが山地の南斜面を上昇して、 稜線付近に酸性雨や酸性霧をもたらすのが原因ではないかと予想されている。一刻も早く原因を究明し対策を立ててほしいと思う。酸性雨以外にも別の異変がおきている。

跡継ぎのないブナ林
 1984年、奥多摩の三頭山で山岳での地質と植物群落の調査を始めた。三頭山は石英閃緑岩と硬砂岩が分布している。このうち、石英閃緑岩は基盤岩の表層は風化が進み、マサと呼ばれる厚い砂の層に変化し、 地形はなだらかで、幅の広い尾根型の斜面にブナの大木が点々と分布し、浅い谷にカエデ類、尾根と谷の境目にイヌブナ、稜線に近い部分にミズナラが生えている。一方硬砂岩地域は急傾斜で、痩せた尾根と深い谷がくり返し、岩がちの険しい地で、ブナは少なく、尾根筋ではイヌブナ、ミズナラ、ツガが優先し、谷筋ではカエデ類を主とする森林となっている。
 樹木の分布図を作成中、立ち枯れしたブナの大木はあっても、その跡を埋めるべき若木が育っていないことに気づく。ブナの大木が枝を広げた空間はそのままぽっかりと空いている。日が差し込むのにブナの若木がない。
 日本海側のブナ林では、どこの山でも林床におびただしい数の跡継ぎがあった。ブナの大木が枯れて林床に日があたると、たくさんの実生や稚樹が競争して育ち始め、数本の高木の集団となり、最終的には1,2本のブナだけが残り、元のブナ林へとなっていく。ところが、三頭山のブナ沢のブナ林では、一抱えもあるような大木ばかりで、 直径が30―40センチ程度のブナですら殆ど見られず、跡継ぎが育っていない。

 調査の結果、三頭山にもブナの実生があったが、いずれも浅い谷筋のなかだけで、現在ブナの大木が生えている幅の広い尾根型の斜面には一本もない。なぜか?
冬の乾燥が種子の発芽を妨げ、かろうじて発芽した実生も枯れてしまう。ここのブナ林は現在の気候には適していない。倒れたブナの年輪から推定すると、ブナは200年あまり前に発芽した。「小氷期」と呼ばれる寒冷な時期にあたる。日本では江戸時代、天明・天保の飢饉の頃で、太平洋側でも冬場は現在より雪が多かったらしい。そのために実生の生育が可能になり、その後のブナ林の拡大をもたらしたのであろう。つまり、ここのブナ林は小氷期のレリック(残存種、遺存種)だと考えられる。
丹沢山の稜線沿いのブナが枯れたのも、もともと現在の気候に合わず、老齢化した大木だけが存続しているところに酸性雨の追い打ちを受けて大きな被害を受けたのが実態である。

追記:
丹沢の自然再生については、丹沢大山自然再生委員会が組織されている(神奈川県HP)が、抜本的な対策は難しいようだ。

      ・
1月の学習項目
○1月10日
16.高山植物の女王=コマクサ 白馬岳、蓮華岳 担当 井村e
17.強風・多雪・大雪渓 剣、立山、薬師岳 担当 矢崎
〇1月24日
18.崖錘の植物 穂高岳、槍ヶ岳 担当 井村j
19.川が作った森林 上高地 担当 池田
 会場: ゆいわーく茅野 102会議室です。


2019.1.10 1.24

16. 高山植物の女王=コマクサ 【白馬岳、蓮華岳】    担当 井村 悦子(会員)

コマクサの分布とその条件
 コマクサの分布は、大雪山、岩手山、秋田駒ケ岳、草津白根山、北アルプス白馬岳、燕岳、蓮華岳など、各地で見ることができる、それほど珍しいものではない。
 植物分類学上、我国のコマクサの基準標本は木曽駒ケ岳で採取されたもの。しかし、薬草としてとりつくされ、現在、この山には分布していない。また、コマクサの南の分布限界は、甲斐駒ヶ岳となっている。
 白馬岳周辺の分布は 三国境、小蓮華尾根、鉢ヶ岳、杓子岳 には多く分布しているが、白馬岳の山頂付近、白馬村営小屋の周辺ではまったく見ることができない。
 コマクサの分布は、高山帯強風地の乾いた砂礫地に分布するが、生育に適した砂礫地そのものの分布が、地質によって決められ、コマクサの生育するのは白い色をした流紋岩の分布地。流紋岩は細かい割れ目がたくさん入っているため風化しやすく、凍結破砕作用によって壊され、ザクザクした細かい岩屑ばかりを次々に形成していく。また、できた岩屑は移動して、上に凸ののっぺりした斜面を作ることが多い。こうした斜面がコマクサの生育地になる。

砂礫地の科学
 この砂礫斜面は遠くから見ると雪と間違えそうなほど白く見えるが、近くで観察すると、粗い礫と細かい砂礫が移動の途中でふるい分けを受けて分離し、地面に縞々模様ができている。これは「条線土」と呼ぶ構造土の一種で、縞の幅は10~20センチで、全体が、斜面の下方に向かって流れるように伸びている。
岩屑は年に20~60センチ斜面下方に動いていることが分かった。この程度の移動でも植物にとっては致命的な速度。発芽したばかりの実生も大人の株も常に土砂に埋められてしまう危険があり、葉も茎も埋められてしまえば、ふつう植物は枯れる。しかし、コマクサは埋もれても急いで茎を伸ばし、地上に顔を出して、葉をつけ直すことができるらしく、枯れた葉の近くには新しい個体が見られるのが普通。
砂礫地では地表1~2センチだけが速く移動するが、下の土層はほとんど動かないから、下の土層に根をはってしまうと根は固定されているのに、植物の地上部だけがどんどん先に移動する。コマクサは主根だけをピーンと伸ばして移動に対処し、夏場になって表土の移動がほぼ停止すると、茎の下に改めて根を伸ばしなおしているようだ。このような環境は、ふつうの高山植物にとってはまず生育が困難。
逆にそういう悪条件の場所に生育の場を求めたのが、コマクサ、タカネスミレ、ウルップソウ、オヤマソバ。

地質が決める植物群落
 植物の分布は地質と密接に関連している。
 鉢ヶ岳から北にのびる稜線の西向き斜面に、4つの地質地域を認めることができ、それぞれ、生育植物が異なる。
〇砂岩、頁岩地域  植被率 70%
 オヤマノエンドウ、ムカゴトラノオ、チシマギキョウ、イワスゲ、タカネマツムシソウなど風衝草原
〇蛇紋岩地域  植被率 1%未満
 ウメハタザオ、ミヤマウイキョウ、ミヤマムラサキ、コバノツメクサなどの蛇紋岩植物
〇花崗斑岩の礫地  植被率 30%
 イワウメ、クロマメノキなど矮性低木群落
〇流紋岩の砂礫地 植被率 0.2%
 タカネスミレ、コマクサが点在、チシマギキョウ、イワツメクサなどからなる

岩石の割れ方のちがい
 なぜ、このような違いがでるのか?
岩石ごとに割れ方が異なり、できる土地条件が決まってくる。高山帯の強風地では冬も雪がほとんどつかないので凍結破砕作用が強く働き、それにより岩の割れ方が岩石の種類によって大きく異なってくる。
白馬岳でコマクサを見たかったら、白い色の砂礫地を探すのが早道。

流紋岩

細かく割れる。
表土の移動がはげしいザクザクした砂礫地

コマクサ、タカネスミレ

花崗斑岩

現在の気候下では破砕されないが、氷河時代には凍結破砕作用をうけたらしく人頭大の礫から直径数十センチという岩塊で覆われ安定している

風衝矮性群落、ハイマツ群落

砂岩

割れて人の頭程度の礫を作る。

両者が一緒になると、砂岩の礫が斜面をおさえて安定させ、頁岩の細かい砂礫がその間を充填していくため、安定し土壌もできやすく、高山植物にとって好適な土地ができる

風衝草原のお花畑

頁岩(泥が固まった岩石)

数センチ以下の細かい砂礫を作る。


岩石の風化と土地条件
 鉢ヶ岳から雪倉岳にのびる稜線の例、近接して4つの地質地域があり、異なった植生が展開する不思議さに筆者が指摘するまで誰も気づかなかった。
 筆者は、このような違いは、岩石の種類が異なると風化の仕方が異なり、それによって生じる斜面堆積物や地形の違いが植物の違いをもたらすという中間項を入れることを考え、納得のいく説明ができるようになった。

コマクサのある蓮華岳とコマクサがない蝶ヶ岳
<コマクサがある地域>
〇蓮華岳 日本最大級のコマクサ群落
 噴出年代が古そうな安山岩で、凍結破砕作用で容易に砕かれ細かい礫を作っている。
〇燕岳、烏帽子岳
 花崗岩の風化でできた細かい砂や礫が堆積した崖錐(がいすい)状の斜面上
〇甲斐駒ヶ岳 コマクサ南限
 花崗岩の風化でできた細かい砂や礫が堆積した崖錐(がいすい)状の斜面上
〇木曽駒ヶ岳 コマクサ絶滅
 花崗岩の山

<コマクサがない地域>
 蝶ヶ岳は粘板岩地域。どうも、砂岩、頁岩、粘板岩などの堆積岩地域を嫌っているようだ。

 コマクサの分布は、東北日本では新しい火山、日本アルプスでも流紋岩、安山岩、花崗岩など火成岩地域にしか出現しない。コマクサの本拠地はカムチャッカ、千島の火山地域で、千島の火山列島→北海道→北アルプス辺りで安山岩のスコリア原から流紋岩、花崗岩の火成岩地域に分布を拡大してきた。
 しかし同じような砂礫地を作る粘板岩などの堆積岩地域に進出できないのは、嫌いな成分があるか、何か重要な成分がたりないかだが、今のところ不明。
 白馬岳の砂岩・頁岩地域にコマクサが見られない理由も同じかもしれない。

      ・
2月の学習項目
○2月7日
20.岩石の割れ目とお花畑 中央アルプス 担当 南波
21.お花畑がみごとな理由 南アルプス 担当 吉江
〇2月21日
22.大地の造形=白山 担当 中野
23.江戸時代からの花の名所
  鈴鹿山脈 藤原岳 伊吹山
担当 井村e
 会場: ゆいわーく茅野 102会議室です。


2019.2.7 2.21

20.岩石の割れ目とお花畑 【中央アルプス】    担当 南波 一郎(会員)

砂礫地の植物たち
 稜線の最も風の強い所に出現する風衝草原。被植率は20-30%と低いがヒメウスユキソウ等、多種の高山植物が咲いている。

ヒメウスユキソウ

ヒメウスユキソウ
エーデルワイスの1種、木曽駒の固有種で花崗岩地域にある
(他種は蛇紋岩、カンラン岩地域)

チョウノスケソウ

チョウノスケソウ
八ケ岳と共に我が国最大の分布地。

ハハコヨモギ

ハハコヨモギ
アラスカが本拠地。
我国では中央、南アルプスのみに生存。

ヒゲハリスゲ

ヒゲハリスゲ
最も高山帯らしい植物。

岩石の割れ目(砂礫地を作る)が分布を決める
 他山では地質の違いが岩屑の大きさを決め植物分布を決めるが中央アルプスは全山花崗岩で基盤の割目多寡が植物分布を決めている。
①割目(節理)の多い所(鞍部,肩)は多くの場合断層があり砂礫地となる。
②割目の少ない所は強固な岩盤であり砂礫地とならず植物が分布しない。
③中央アルプス領線上では節理密度と植物分布が相関している。下図参照(教本P175)
図

南岳(槍と穂高の間)のタカネヒカゲ

 :植物の分布が蝶の分布を決める
 高山蝶(真性):高山帯で生まれ、高山植物を食べて育ち、高山植物に産卵する蝶
 北海道-4種
 本州-1種 タカネヒカゲ(右写真)

タカネヒカゲ

※北海道の高山蝶はダイセツタカネヒカゲ、ウスバキチョウ、アサヒヒョウモンの3種という説もあり。

①タカネヒカゲは幼虫のまま2回冬を越し3年目に蛹、蝶になる。
筆者は南岳のゆるやかなお礫地の一角にあるイワスゲの生育地で見た。イワスゲは本蝶の食草だが産卵中であった。
②イワスゲのあった1角のみ基盤の岩石に断層があり細かい岩屑が生産されていた。
断層-イワスゲ-タカネヒカゲのつながりである。
③タカネヒカゲが育つ礫地の礫の大きさは微妙で拳大が良いようだ。
繊細な蝶を護るためにはケルンを積むのは自粛が必要か。

写真はすべて山渓カラー名鑑「日本の高山植物」より

イワスゲ

<参考:山の成り立ち>
山の生成には断層、隆起(プレート衝突)、火山、侵食がある。
日本の主要な山はプレートの衝突とそれに伴う火山である。
①日高、夕張、天塩山地:2,000万年前頃の北海道形成時の衝突
 大雪山:150万年前以降の火山群
②北アルプス:200~80万年前のアジア・プレート,北米プレートの衝突、及び火山
③南アルプス:500万年前からのフイリッピンプレートが構造線を北西に押す
④中央アルプス:断層で形成
⑤伊豆半島:100万年前にフイリッピンプレートの移動で海底火山が日本に附加
⑥丹沢:伊豆半島の形成時に隆起
⑦富士山:数十万年前~4回にわたる火山噴火で形成
⑧八ヶ岳:200万年~1万年前までのフォッサマグナに噴出した火山

     
3月の学習項目
○3月7日
24.四国山脈と高山植物 石鎚山 東赤石山 担当 定成
25.亜高山帯のない山 屋久島と九州の山々 担当 南波
 会場: ゆいわーく茅野 102会議室です。


2019.2.12

学習会の講演会
 信州 高山植物のホットスポットはどこ?

 2月12日(火)13:30~ 茅野市中央公民館2F 学習室で長野県環境研究所の出前講座として、同研究所 自然環境部の尾崎雅章主任研究員をお招きし、題記の題目で講演していただいた。
 本講演は、森林観察学習部会の学習会の事業として実施した。28名(学習会参加者14名、当会会員4名 一般市民の参加者10名)が聴講した。
30年度の森林観察学習部会の学習会では、10月から小泉武栄氏の著書「山の自然学」をテキストに使い学習を続けていて、日本の北から南までの代表的な山域の地質や地形の特徴とそこに生息する植物との関連を学んでいる関係で、その内容の理解を更に深めるために、題記の内容で講演をして頂いたものである。

<講演の内容概略>
 高山植物とは高山帯を住処とする植物達のことで、日本(本州)では標高2500mを森林限界に植物相・植生が劇的に変わり、高山植物が生育している(但し、森林限界は地域により変わり、ヒマラヤでは標高4200m、ヨーロッパでは標高2000mである。)その中で信州の高山植物の種類は380種あり、これは日本全体の種数の70%に相当する。
 世界からみた信州の高山は標高が低く、山脈、山塊の広がりも小さいが、そこに生育する高山植物の種類数は、本州中部山岳地帯で399種類/200Kmに対し、スイスアルプスでは577種類/400Kmであり、信州の高山植物の多様性が高いことは、世界的にみるととても不思議なことである。しかし、これが信州の高山植物の特徴であり魅力になっている。
 中部山岳の高山植物の生い立ちとしては、殆どが周北極要素としてシベリアからカムチャッカ半島を経由してきたものだが、その他にアジア要素としてカラフトや朝鮮半島を経由したもの、アリューシャン列島経由の太平洋要素、低い山から侵入したもの(低山要素)と日本独自に種分化した(固有要素)が複合して多様性が高くなっている。
 本州の中で山域ごとの高山植物の種多様性を見てみると、八ヶ岳山域が最も高く、以下赤石山脈、飛騨山脈の順になる。さらに山岳ごとの種多様性では第1が白馬岳周辺の白馬連山であるが、第2に八ケ岳の横岳・赤岳が入る。以下塩見岳、荒川岳、仙丈ケ岳と続く。
更に、高山植物多様性と地質とのつながりの面からみると、信州の高山は複雑な地質・地形にささえられて、多様性が高くなっていることが判る。白馬連山は蛇紋岩・石灰岩を特徴に蛇紋岩植物、石灰岩植物が生育し多様性を高めホットスポットになっているし、八ヶ岳山域は火山性の安山岩、流紋岩などの砂礫地を好む高山植物と岩塊斜面に特徴づけられた高山植物に加え、氷期から間氷期へ向かう過程で高地へ退避してきた植物の生き残りが多様性を高めている。
 また南アルプスでは砂岩~泥質堆積岩類など四万十帯・飛騨外縁帯などの付加帯を特徴とした高山植物が多様性高めている。
 最後に高山植物多様性の4つの危機として信州では、
 第1の危機:人間活動や開発(土地開発・造成)
 第2に人間活動の縮小(草原の森林化)
 第3に人間による持ち込み(外来生物)
 第4に気候変動(ライチョウ、八ケ岳でのウルップソウやツクモグサなども気候変動の影響から危機的な状況にある。)
があげられるが、高山植物の保護の面では、北アルプスに迫るシカ、イノシシの対策が喫緊の課題である。

講演会風景

講演会風景



2019.3.7 3.28

3月28日  「山の自然学」まとめ

 平成30年度の後半は、小泉武栄著「山の自然学」を学習してきましたが、植物が地質、岩石の話が出てきますが、その岩石がなぜその山にあるのか、どうしてできたかが理解できませんでした。
 そこで、取り纏めの井村淳一さんにその辺の知識の纏めをお願いし、右の順に説明してもらいました。
少し、知識が整理できました。
 1.地球の誕生
 2.岩石の生成
 3.地殻の生成(海洋地殻、大陸地殻)
 4.プレートテクトニクス
 5.日本列島の生成
 6.中央構造線、フォッサマグナ
 7.岩石と植物の関係

学習会風景

私たちは、このような活動を通じて人と森林との新たな関係を作り出し、豊かな森林を次世代にバトンタッチしたいと願っています。