R01年度 事業計画・報告

学習会 レポート  (R01年度)


月に2回実施している学習会からの情報発信レポートを連載します。


2019.5.9 5.23

~森林を良く知ろう~
 本年度の教材を何にするか、いくつかの候補を参加者で討議した結果、気象のメカニズムを知ることを目的に、前半の教本を決めました。

<使用テキスト>
 「異常気象と地球温暖化―未来に何が待っているか」 鬼頭昭雄著 岩波新書

     
5月の学習項目は以下の通りでした。
○5月9日
教本の検討、進め方の説明、輪講講師決め
○5月23日
第1章 異常気象 井村j、石田
1.異常気象とは何か
2.気温の長期変化
3.最近の異常気象から 記録的な大雨
4.大雨 短期間大雨 特別警報 

フェーン現象のしくみを知るために  石田 豊(会員)の資料から

水蒸気量と湿度
水の三態変化
水という物質は、温度によって姿を変える。
表1
※常温状態に水の三態が存在することは、生命の生存に重要。地球の大きさと、太陽からの距離によって、ちょうど良い環境が保たれている。

飽和水蒸気量
空気の成分は、約78%は窒素、約21%が酸素、アルゴンや二酸化炭素が1%(未満)の大気組成で、そこに水蒸気が、約1~4%程度含まれる。(空気1ℓは1.2g。1m3は1.2kg)
空気中に含むことができる水蒸気量は、限界があり、低温ほど少なく気温が上がると増えるが、限界以上は空気中に気体のまま含むことができなくなり、雲・霧・雨粒・露などの水滴になる。
空気1m3中に含むことができる、温度ごとの最大水蒸気量を「飽和水蒸気量」という。
  表2
湿度
湿度とは、その時の空気中の水蒸気量が、その時の気温の飽和水蒸気量のどれくらいの割合か?(%) ということで、一般的に次の式で求められる。
  表3
気温と湿度の関係
当然、空気中の水蒸気量が増えれば(地面からの蒸発や、湿った空気の流入)、湿度は上がる。
が、それは気温の変化なかった場合である。
例題をやって気づくと思うが、空気中の実際の水蒸気量が変化しなければ、気温が高いほど飽和水蒸気量gが多くなる(公式の分母が大きくなる)ので、湿度は下がる。
雨などによって空気中の水蒸気量が変化しなければ、気温が低い時は湿度が高く、気温が上がると湿度は下がる。というふうに、気温と湿度のグラフは、逆のカーブを描く。
表4
フェーン現象
気温は、標高が低いところほど暖かく、上空は気温が下がる。これはいろいろな説明がされるが、次のように考えると理解しやすい。
(a)標高が低いところは気圧が高く、熱を持っている空気の粒の密度が高いので気温が高くなる。
同じ空気の塊を上空に運ぶと、気圧が下がり、空気の粒の密度がまばらになる。熱の集まりもまばらになるので、気温が下がる。こういう現象を「断熱膨張」という。
その温度変化は、100m上昇すると、1℃下がり、100m下降すると、1℃上がる。
(b)一方、空気の状態が変化しなければ、温度変化の割合は変わらない訳だが、空気中に含まれる水蒸気が、露点を超え、結露し始めると、持っていた熱を放出するので、気温の下がる割合が緩和されます。100m上昇するごとに、0.5℃下がる。

次の例題をやって、フェーン現象のしくみを理解しましょう。
表5



        
6月の学習項目
○6月6日
第2章 地球の気候はどう決まっているのか
1.気象システム 担当 黒田
2.異常気象の発生 担当 矢崎
6月は1回になります。


2019.6.6

第2章 地球の気候はどう決まっているのか    黒田キミさん(会員)の資料から抜粋

【 気候の成り立ち 】
地球の気候は、太陽エネルギーによって大気が循環し各所で水、その他の物質のやりとりが行われる複雑なシステムであり、気候システムと呼ばれている。(テキストp.37図2-1)
特に、地球表面の7割を占める海洋は大気(酸素、二酸化炭素や水蒸気等)との間で、海面を通して熱や水蒸気などを盛んに交換しており、海面の水温や海流の変動は、気候に大きな影響を及ぼす。

【 気候を決める要素 】
気候システムを駆動する力は太陽エネルギーである。
太陽から地球が受け取るエネルギーの変動の原因としては、次の4項が考えられる。
 1. 時間スケールでの太陽自身の変化
 2. 火山の噴火
 3.大気の組成の変化
 4.土地表面の変化

【 地球の温度はどう決まっているか 】
地球全体の温度は、太陽から受け取るエネルギーの収支により決まる。
地球が宇宙空間へどれだけエネルギーを放出するかは、地球の温度によってきまる。入射する太陽放射と「反射+気候システムからの放射」が釣り合うところで地球の温度は決まる。
太陽から地球大気の上端に到達する1平方メートルあたりのエネルギーは、昼夜平均して340ワット。このうち、30%の100ワット分が宇宙空間に反射される。

【 温室効果 】
地上約5㎞の温度はマイナス18℃だが、実際の地上気温はそれより高い。
その理由は、大気中に温室効果ガスが存在するから。
<温室効果の仕組み>
温室効果ガスは、赤外線を吸収しやすいが、可視光線は吸収しにくいという性質を有する。
太陽によって暖められた陸や海などの地表面からは赤外線が放射されるが、その多くが温室効果ガス(水蒸気、二酸化炭素、メタン、一酸化炭素、オゾン、ハロカーボン類など)で吸収される。
すると、大気が温まり、そこから赤外線から放射される→大気からは上下左右の全方向に赤外線が放射されるため、ほぼ半分は地表に向けて放射されることになる。このため太陽から直接受け取るエネルギー(反射されるエネルギーの残り)よりも多くのエネルギーを、地球表面は受け取ることになり、温室効果ガスがない場合よりも地球表面は温度があがる。これが温室効果ガスである。

【 気候システムを冷やす/暖める 】
気候システムを冷やしたり暖めたりしている重要な要素として、雲とエーロゾルがある。
雲:
太陽光を反射して地球を冷やしているだけでなく、地球からの赤外線放射を吸収するため、地球を暖める役割もしている。
 (大気上端に達した太陽光線の30%は、宇宙空間に反射されるが、その3/4が雲やエーロゾルのよる) 雲量の小さな変化が気候システムに重大な影響をもたらす。
エーロゾル:
大気中に浮遊する微小な液体や固体の粒子状の物質。
光を散乱したり吸収したりすることで、地球の熱収支に影響を及ぼす。又、雲粒の「たね」としても作用するので、雲の性質を変化させることを通じて気候に影響を与えている。
 自然起源のエーロゾル:
 砂塵嵐による鉱物粒子の飛散、海面からの飛沫、火山噴火の噴煙、森林火災からの「すす」(黒色炭素)、植物の生命活動からの有機炭素等
 人為起源のエーロゾル:
 化石燃料を燃やすことにより出る硫酸塩や「すす」
エーロゾルは対流圏では1日~2週間で、最後は重力で落ちたり、雨に取り込まれたりして地表に落下するが、降水現象のない成層圏に入ったものは1年以上もとどまる。

参考図書: 気候変動を理学する 多田隆治著、気候文明史 田家康著


     
7月の学習項目
○7月4日
第3章 気象変動の過去と現在
1.気象の温故知新 古気候学 担当 吉江
2.氷河期と間氷河期サイクルの仕組み
担当 池田
○7月18日
3.温暖化が停滞から復活するか 担当 南波
4.異常気象の原因特定 担当 井村e


2019.7.4 7.18

第3章 気候変動の過去と現在    吉江利彦さん(会員)の資料から

1 気候の温故知新 ―― 古気候学
 古気候とは一般に、温気象測器で直接測れないほど昔の気候です。 気象測器による記録は100年程しかない。

○どのように過去の気候を推定するか
代替指標データを使って過去の気候を調べている。
代替指標データとして使われているデータには、樹木の年輪、花粉化石、洞窟内の石筍や氷筍、湖沼堆積物、海底堆積物、氷床下の氷などがある。
多く使われる手法は、同位体を用いた分析です。

○氷床コア
氷床コアの中に含まれている気泡を分析することによって、過去数十万年の寒暖の度合いや、二酸化炭素濃度などの大気組成がわかる。また、火山灰や塵も入っていて火山活動や砂漠が広がっていたかどうかが推定できる。

○時間と空間のスケール
代替指標には、サンプルが採られた地点のみの気候記録を代替しているものもあり、地域的な広がりをもった空間的代表性のあるものもある。 多くの代替記録を集めることで、ある時代の北半球高緯度の気温を現在と比べ統合する試みを続けている。

○時間スケールとメカニズム
数十万年かけて起こる気候変動と、異常気象とはメカニズムが異なります。 統合的に古気候代替指標データが収集され、将来の気候の定量的予測に用いられているのと同様な気候モデル※1による古気候シミュレーションが行われています。それによって過去の気候変動のメカニズムを調べるとともに、データとモデルの比較を通して、将来予測に用いる気候モデル※1の評価や検証も行われています。 ※1:地球上の大気、海洋などの気候を長期的・量的にシミュレーションするもの。

○今は氷河時代のまっただなか
地球上に氷床が存在する時期を「氷河時代」といいます。氷床が大きく発達した時期「氷期」と、限られた地域のみに氷床が見られる時期「間氷期」の交代を繰り返してきました。最後の氷期は2万年前ごろに最盛期を迎え、現在は氷河時代の中の間氷期です。

○大陸移動
氷河時代は古くは24億5千万年前から何度か存在していて、この間、大陸配置が大きく変わるとともに、大気中の二酸化炭素濃度や大陸氷床の大きさも変動してきました。大陸配置は現在でも続いていて気候システムの重要な外部条件でもあります。

○過去の二酸化濃度
古い氷河時代以降でも大気中の二酸化炭素濃度が現在の10倍以上の時代もあり、世界平均気温が現在より数℃以上温暖な時代も珍しくはありません。 最近の6500万年間、気温の高い時代は二酸化炭素濃度の高い時代とほぼ一致していることがわかっています。

○古気候シミュレーション
約5000万年前と約350万年前の時代では収集された古気候代替指標データが統合化され、気候モデルによるシミュレーション結果との比較がなされています。約350万年前の二酸化炭素濃度は400ppmほどで、代替指標から海面水温は今より1.7℃高かったと推定されています。

○海面水位
海面水位の推定は世界各地の地質調査をもとにされていて、350万年前には約20m分、海面が高かったという報告があります。海面水位を再現するには氷床の消長の地質記録から海への正味の水の移動を推定するだけでは不十分でアイソスタシー※2を通じた地盤の変化を計算する必要がある。 ※2:地殻が,密度のより大きいマントルの上に浮かんでいる状態にある,という現象のこと。


     
8月の学習項目
○8月1日
第4章 21世紀の地球はどうなるか
1.未来の気候を予測する 担当 定成
2.21世紀の温暖化の進行
担当 井村j
○8月22日
第5章 日本の気候はどうなるか
1.地域気候モデル 担当 石田
2.異常気象の変化 担当 井村e


2019.8.1 8.22

第4章 2.21世紀の地球はどうなるか    井村淳一さん(会員)の資料から

○世界の気温上昇
IPCCのAR5(第5次評価報告書)では、21世紀末(2081~2100年)の世界平均気温は1986年~2005年の平均気温に対し以下の上昇量になると予側しています。
表 表
※RCP(Representative Concentration Pathway:代表的濃度経路)とは?
代表的な温室効果ガスであるCO2は、いったん大気中に排出されると、森林や海洋など生態系に吸収されない限り、大気中に残り続ける。平均気温の上昇は大気中の温室効果ガスの濃度に比例する。大気中に温室効果ガスが累積すればするほど、気温が上昇するということになる。
RCPの2.6や8.5などの数字は、地球温暖化を引き起こす効果(放射強制力と呼ばれる)を表す(単位W/㎡)。値が高いほど、温室効果ガスの濃度が高く、温暖化を引き起こす効果が高いことを示す。
出典:WWFジャパンHP「地球温暖化についてのIPCCの予想シナリオ」

○昇温の大きい範囲
北極域は世界平均より速く温暖化し、陸上における平均的な温暖化は海上よりも大きくなるだろう(非常に高い確信度)
北極域:現在太陽光を良く反射する雪氷が、気温上昇とともに面積を縮小し太陽光の吸収が加速される。
陸域の気温上昇は海上よりも1.4~1.7倍の範囲で上昇するだろう。
海上では温度が上がると蒸発が増え蒸発の気化熱が奪われるので、気温上昇は抑制されるが、陸域は土壌水分に限りがあり蒸発が抑制される。
極端な高温現象が増え、極端な低温現象が減るだろう。熱波の頻度が増加し、より長く続く可能性が高い。

○熱帯域が広がる。
気温が上昇すると大気の循環が以下のように変化する。
ハドレー循環の範囲が拡大し、ウォーカー循環は弱まり 熱帯域が広がる。

○降水量の差が拡大する。
長期的には世界平均気温の上昇とともに世界平均降水量が増加する。
(気温が高くなると飽和水蒸気量が高くなる。==>水蒸気量も増えるので、降水量も増加する。)
高緯度陸域では気温が上がり水蒸気量が増加するため降水量は増加する。
中緯度および亜熱帯の乾燥、半乾燥域では降水量は減少し、湿潤な中緯度域では降水量が増える。降水量の空間的変動が大きくなる。
短期的には気温の上昇に伴い、個々の低気圧の強度が増し、弱い低気圧の数が減る。
中緯度陸域の大部分と湿潤な熱帯域では、極端な降水現象が強度と頻度も増える。
これも大気中の水蒸気量が増えることが原因

○縮小する雪氷圏
積雪面積は平均気温の上昇とともに減少する。
21世紀の間、北極域の海氷面積が縮小し、厚さは薄くなり続けるだろう。

○海洋酸性化
大気中の二酸化炭素濃度の上昇に伴い、海水中に二酸化炭素が溶け込むと海水のpHが下がりアルカリ性が弱まる。これを海水の酸性化と言う。
海水の酸性化が進むと、水素イオン濃度が増加し、水素イオン濃度が増加すると炭酸カルシウムの殻の形成が困難になる。

○長期的な海面上昇
低位安定化シナリオでは:工業化以前に比し、2300年までに1mの水位上昇
高位参照シナリオでは1~3.5mの水位上昇

○累積総排出量に比例して世界平均気温が上昇する
人類が大気中に排出した二酸化炭素の総量によって、21世紀後半以降の世界平均の地表面の温暖化の大部分が決定される。<==AR5の結論
66%を超える確率で2℃未満に抑えるには、温室効果ガスの排出量を1兆トン以下に抑える必要がある。二酸化炭素排出量では7900億トン。(すでに2011年までに5150億トン排出しているので、2012年度の排出量が97億トンなので単純計算して後30年でこの限界を超える。


     
9月の学習項目
○9月5日
第6章 気候のティッピングポイント
1.気候が不安定になるとき 担当 本村
2.ティッピングポイントはくるのか
担当 下田
○9月19日
第7章 気候変動の影響
1.すでに生じている影響、予想される影響 担当 中野
2.緩和策と適応策 担当 中野


2019.9.5 9.19

第6章 気候のティッピングポイント    下田英雄さん(会員)の資料から
 2 ティッピングポイント※1は来るのか

※1 ティッピングポイント:それまで小さく変化していたある物事が突然急激に変化する時点

大西洋子午面※2循環
・急激な気象変動をもたらす要因として、大西洋子午面循環の弱まりとメキシコ湾流の停止の可能性が注目されている。
・世界の海洋の深層循環を駆動している大元は大西洋子午面循環。まず大西洋北部のグリーンランド海・ノルウエー海・アイスランド海で 塩分濃度の高い表層の海水が冷やされ、密度が高くなって深層迄沈み込む。もともとこの表層水は、蒸発によって塩分濃度の高くなった 亜熱帯地域からメキシコ湾流によって運ばれてきたもの。この両者を合わせて子午面循環と呼んでいる。
・北大西洋で沈み込んだ深層水は低層を南極付近まで南下し、そこから東に流れてインド洋や太平洋で浮上した後、大西洋に戻るという 海洋深層循環が形成されている。
※2 子午面:本来は、地球の両極と中心を結んで輪切りにした面。ここでは、南北両半球を貫く広がりをもった地表面の意

最終氷期の急変動
・大西洋子午面循環の変動が、過去に急速な気候変動を引き起こしたと考えられている例がある。 2例紹介されているが、本誌面では省略。

子午面循環が止まるか
・もし北大西洋表層において、温度上昇や塩分濃度低下によって海水密度の低下が持続すれば 、すべての気候モデルで深層循環の弱まりや完全な停止が起こりうると予想されている。 そうなると、全世界的に大規模な影響を及ぼすと心配されている。
・問題は、人間活動の影響が深層循環の変化を引き起こす引き金になるかどうか。
温暖化によって降水量が増加すれば、北大西洋での増加のみならず陸地から北大西洋に流入する 淡水も増加する。また、陸氷が融解して淡水が供給されれば表層水の塩分濃度はさらに低下する。 これらによって、21世紀中に深層循環は弱まると考えられている。
ただ、気候モデルの予測では、21世紀末までにほとんど変化なしから、50%以上弱くなる予測迄、 大きな幅があるが、深層循環が急激に弱まったり停止すると予測するモデルはない。
・さらに将来、人間活動による温暖化が原因で、深層循環が停止し、氷河期が来るか? 現在の知見では、深層循環が弱くなるとしても、それによる冷却効果より人間活動による温暖化の影響の方が大きく上回るため、ヨーロッパでも昇温が続くとみられており、温暖化が引き金となって氷河期(寒冷化)に至ることはないとみられる。

グリーンランド氷床と南極氷床は融解するか
・急激な気候変化として議論されているもう一つの例は、グリーンランドや南極の氷床の急速な崩壊。
・北半球高緯度の温暖化は、グリーンランド氷床の融解を加速しており、今後数世紀で大きく縮小する可能性ある。 グリーンランドの気温がある温度を越えると氷床が完全消滅に向かうという しきい値が存在するという研究例もあり、 そのしきい値は世界平均地上気温上昇量で1~4℃の間にあるといわれている。 「二酸化炭素排出シナリオ」(p.106,110の図表参照)によっては、21世紀中にこの温度を越える可能性がある。 ただ、世界平均海面水位を7m上昇させるほどの大きさを持つグリーンランド氷床全体が融解するには数世紀かかると思われる。
・一方、南極の氷床の末端は棚氷となって海に突き出しており、海水が温まると棚氷が崩壊し、氷床の流出が加速的に 起こる可能性がある。ただ、このような現象を予測するための定量的な情報はまだ得られていない。

永久凍土が温暖化を加速するか
・アラスカ、カナダ、シベリアやチベット高原には、年平均気温が0℃以下の地域で永久凍土が存在しており、 その底にはメタンハイドレード※3が含まれているので、永久凍土が融解すると、強力な温室効果ガスである メタンが大気中に放出され、温暖化を加速する可能性がある。しかし、永久凍土が解ける際のプロセスは未だよく分かっていないので、 定量的な予測は今のところ不可能。
※3メタンハイドレード:メタンの周りを水分子がかご状に取り囲んで凍った包接水和物(氷状の個体)。 火をつければ燃えるので「燃える氷」とも言われる。低温高圧条件下で存在(例:30気圧でー30℃以下)。 温暖化対策のエネルギー源とみられているが、効果的な採掘方法が未確定。

アマゾンの森林は枯渇するか
・アマゾンなどの熱帯の森林(温帯の森林も)が、気候変動の結果、枯渇するかどうかは不確実。降水量が減少し、干ばつが続くことにより枯渇する 可能性は考えられ、気温上昇によって影響を受けることは否定できないが、結果の予測は困難。

北極の海氷は消滅するか
・北極海の海氷面積は、年平均で4%程減少を続けており、「高位参照シナリオ」では、今世紀半ばまでに9月の北極海で海氷がほとんどなくなる可能性が高いと予測されている。 つまり、夏の北極海の海氷減少は、すでにティッピングポイントを越してしまったとも考えられる。ただし、まだ観測年数が短いことや気候システムのスケール変動を 考えると結論づけることはまだ困難。66%を超える確率で2℃未満に抑えるには、温室効果ガスの排出量を1兆トン以下に抑える必要がある。 二酸化炭素排出量では7900億トン。(すでに2011年までに5150億トン排出しているので、2012年度の排出量が97億トンなので単純計算して後30年でこの限界を超える。

ティッピングポイントの確信度は低い
・本章で示した急激な気候変化は、過去に起こったことは分かってきたものの、今世紀中に起こるかどうかは分からないというのが実際。 IPCCの報告書でもこれらの現象については「一般には確信度は低く、21世紀にそうした現象が現れる可能性についての合意はほとんどない」としている。 なぜなら、急激な気候変動のメカニズムが完全には分かっておらず、そのためのモデリングもできていないため。
・第3章で述べた古気候の研究は、気候変動のメカニズムを明らかにしていくことを通して未来を予測するためにも重要になっている。


     
10月の学習項目
○10月3日
まとめ 担当 井村
○10月17日
担当未定 3日に決定する。


2019.10.3 10.17

温暖化に貢献しうるブナ林  成熟林は炭素を必要としていないのか?
   「森林環境2015」 テキストP48~58     井村淳一さん(会員)の資料から

1.

森林生態系における炭素循環
NEP:Net Ecosystem Production
[同義]生態系純生産量 正味生態系生産量
一定期間内(通常1年間)における純一次生産から有機栄養生物の呼吸による炭素損失を引いた値に等しい。
純一次生産(植物の光合成による炭素吸収量=総一次生産から呼吸による炭素放出量を差し引いたもの)から植物の枯死、分解による炭素放出量を差し引いたものである。
NPP:Net Primary Production 純一次生産
植物が光合成により大気中の二酸化炭素を固定し、生産する有機物の量のことをいう。一定期間内(通常1年間)における総一次生産(植物の光合成による炭素吸収量)から呼吸による炭素放出量を差し引いたものである。
GPP:Gross Primary Production
総一次生産 光合成によって生産される有機物の総生産量

CO2
(出典:テキスト森林環境2015)

生態系純生産量(NEP)=総一次生産量(GPP)-生態系呼吸量(ER)
生態系呼吸量(ER)=地上部の呼吸量+土壌呼吸量(SR)
土壌呼吸量(SR)=植物地下部の呼吸量+微生物呼吸量(HR)
微生物呼吸量(HR)=(植物の枯死部+土壌有機物)の呼吸量で従属栄養生物の呼吸量
純一次生産量(NPP)=総一次生産量(GPP)―地上及び地下の植物体の呼吸量

2.

時間とともに変化する森林生態系の炭素循環
従来は成熟林や原始林では総一次生産量と生態系呼吸量はほぼ等しくなり、NEPはゼロを示すと言われてきたが、現在では、少なく見積もっても陸域生態系全体のCO2吸収量の1割程度になることが判明してきた。
このことは、地球温暖化の主因がCO2の増加であると言われている中で、この炭素吸収量(年間約1Gt)は考慮されていなかったことになる。この収支をどう整合をとるのか今後の課題である。

3.

成熟林のNEPがゼロにならない仕組み
成熟林の更新の仕組みにある。ギャップ・ダイナミックスにより、若い林がギャップに依存して形成され続けていて、実際の成熟林は動的な生態系であり、実生の林、若い林、そして老齢な林が同所的に存在していることが、NEPがゼロにならない要因と言える。

4.

カヤノ平ブナ成熟林の炭素吸収能力
カヤノ平ブナ林は冷温帯の主な極相種であるブナが優先する成熟林(ブナの樹齢300~500齢)である。
この成熟林を小プロットに分け、その土壌呼吸量の空間変動を測定するため、各地点の土壌温度、土壌水分、と林冠の開空度をしらべた。土壌呼吸量は小プロットごとに大きく異なっている。P56 図6

5.

カヤノ平ブナ成熟林の炭素吸収能力  P56 図7
①土壌温度が上がるにつれて土壌呼吸速度もあがる。
②開空度が上がるにつれて土壌呼吸速度は低下する。
③表層の土壌水分が上がるにつれて、土壌呼吸速度は低下する。
④開空度が上がるにつれて表層の土壌水分が増加する。
つまり、ギャップ等で林冠が開けてくるにつれて、土壌水分が高くなり、土壌呼吸速度は低下する等、林分の構造により場所による土壌水分の違いが土壌呼吸量の場所の違いに現れている。この違いがNEPの評価にも影響している。

6.

気候変動下での森林生態系の炭素吸収能力
森林の炭素循環が時間的に変化することや、成熟林の炭素循環はまだ未解明なところが多い。よって温暖化の主因とされるCO2濃度の上昇も、この森林生態系の炭素循環と炭素吸収能力が環境要因に大きく左右されることが判ってきているので、更なる研究が必要である。


     
11月の学習項目
○11月7日
第1章 IPCC 第5次報告の意味するところ 担当 中野
第3章 自然林と人工林における気候温暖化の影響と対応策 担当 井村e
○11月21日
第5章 雪国の古民家にみる森と人の関わり 担当 池田
第6章 自治体の施策に適応策を組み込むには 担当 本村


2019.11.7 11.21

自然林と人工林における気候温暖化の影響と対応策
  「森林環境2015」 テキストP39~47  井村悦子さん(会員)の資料から抜粋

1.

はじめに
温暖化の影響は、人工林では成長や病害虫の変化、自然林では天然更新を通して構成種の優先度や組成に変化が出る。これに対する、対応策は、自然林と人口林では大きく異なる。

2.

自然林への影響予測と適応策
自然林は、野生生物の生息地としての機能が人工林よりも高い。温暖化に対して生態系や生物多様性を保全する対策(適応策)が、自然林管理の今世紀の重要な課題となる。
植物分布は温暖化の影響でゆっくりと変化している。
西欧州の植物171種の分布が過去100年間に10年で平均29m上昇、世界の1700種以上の生物分布が10年で平均6.1km北上したことが報告されている。
近年、分布予測モデルを用いて、種や生態系の将来の潜在生育域(分布が可能な環境を持つ地域)が予測され、温暖化に伴う脆弱な種・生態系と地域が推定された。潜在生育域から外れる分布域は、脆弱な地域と推定できる。
一方、温暖化に伴い、潜在生育域は北方や高標高に移動するので、新たな潜在生育域への侵入が可能になる。
植物の移動は、種子を散布し新たな生育地に定着することの繰り返しが必要。植物の移動速度は種によって異なるが、樹木の移動速度は遅く、温暖化の潜在生育域の移動に追いつけず、潜在生育域だが分布しない地域(不在生育域)が広がると予想される。
日本には亜熱帯から高山帯(寒帯)まで幅広い気候帯があり、生育する6000種以上の植物は異なる分布域を持っている。温暖化に伴い、冷温帯、亜高山帯(寒温帯)、高山帯の種の潜在生育域は縮小し、亜熱帯と暖温帯の種の潜在生育域は拡大する。
冷温帯から高山帯に南限のある種は南限地域では絶滅し、北限地域では分布拡大が遅い可能性がある。
亜熱帯、・温帯域の種では、潜在生育域が拡大するが、潜在生育域の拡大には追い付けない場合が多い。
分布南限などの脆弱な地域、北限などの分布域拡大域では、温暖化の影響が現れやすいと予想される。
しかし、予測だけでなく、事実把握のための定期的な現地調査(モニタリング)が必要で、影響予測とモニタリング結果に基づき、緊急性のある事案を選別し、適切な保全策を実施することが賢い適応策。(P40図1)

ブナの場合
日本のブナ林は、世界的に見ても面積が広いことや自然度が高いことが特徴。
ブナ林の保護策(適応策)は地域に寄り異なる。
・本州日本海側・東北・北海道南部
ブナの消失を加速させる最大の要因は森林伐採であることから、保護区に入っていない持続的潜在生育域を保護区に追加するのが有効。
・潜在生育域が消滅する西日本・本州太平洋側は、保護区追加は効果がなく、もっと積極的な保護策が必要。
この2地域のブナの遺伝形質は異なる。遺伝的多様性を保護するためにも、西日本・本州太平洋側のブナを積極的な作業による保護する意義がある

国や自治体が管理する保護区の管理計画に、温暖化の適応策を他の諸問題の対策と調和させて組み込んでいく必要がある。

3.

人口林への影響予測と適応策
人工林は、植栽や雑草木の刈り払い等の作業で育成されたスギ、ヒノキ、カラマツなど有用樹種からなる森林で、人為的に種間競争は排除されているので、温暖化の影響で問題となるのは、病虫害と成長となる。
・土壌条件の良い場所で成長量の増加が期待できる。
・高温によるスギの成長低下
・病虫害の発生地域の拡大

病虫害
マツ材線虫病、スギカミキリ、トドマツオオアブラムシ、ヤツバキクイムシなどで温暖化の影響予測がされる。これは冷涼な気候条件では発生しにくいので、温暖化が被害を拡大(北上)させると推定される。
現在、マツ材線虫病は、マツ生立木を伐採して「防除帯」の設置、マツ枯れ発生時は素早く枯死したマツの伐倒処理が行われているが、これからの温暖化に伴うマツ枯れの危険域の北上には、現状の方法では完璧な防除は難しいので、マツ林を耐病性マツや他樹種への置き換えが根本対策になる。

成長
スギは年間を通して水分の要求度が高い。比較的乾燥する北関東、瀬戸内地域でスギ高齢木での梢端枯れが確認されている。 スギの生理プロセス(蒸散)と環境条件(降水量と土壌の保水性)に基づき、温暖化に対するスギの脆弱な地域が特定されている。温暖化後は、関東平野や青森県北部など、蒸散降水比が高い地域が拡大し、この地域のスギが衰退の可能性が指摘されている。
育林樹種に対する温暖化影響予測には、生理プロセスモデル以外に、成長量を環境条件から予測する統計モデルも有用と考えられるが、まだ研究が進んでいない。スギ以外の温暖化影響予測もほとんどされていない。人工林は材の収穫まで50~100年掛かるので、温暖化による将来の適正樹種を見越して、育林木の選択が必要である。
人工林の病害虫や成長と気候条件の関係が明らかになれば、温暖化に伴う育林樹種の適地の予測ができる。
各育林樹種について、現在と将来の気候条件における育林適地マップが作成されれば、各場所で樹種選択の判断に役立つ。

4.

おわりに
温暖化の生態系への影響が既に現れている。森林生態系は、変化がゆっくりしていること、環境要因と多様な生物が織りなす複雑なシステムのため、温暖化だけの影響を見分けられない。しかし、近年進歩した分布予測モデルは、温暖化を見分けるためにも有用。
モデルを用いた影響予測と変化を把握するモニタリングを同時に推進することにより、得られた情報を参考に適切な適応策を実行していくことが健全な森林の維持に必要である。
一方、森林はCO2の吸収・排出・貯留の機能を有しており、吸収・貯留を通して温暖化を緩和する役割が期待されている。今後は、森林における適応と緩和を調和させる対策が必要である。


     
12月の学習項目
○12月5日
第7章 農山村における気候変動の影響と対応策 担当 黒田
第8章 グレーインフラからグリーンインフラへ 担当 定成
○12月19日
第9章 気候変動下における山岳リゾートとの将来展望と適応策 担当 石田
第10章 地球温暖化対策は今年のCOP21で第2段階へ 担当 下田


2019.12.5 12.19

気候変動下における山岳リゾートの将来展望と適応策 
  「森林環境2015」 テキストP99~108  石田豊さん(会員)の資料から抜粋

1.

はじめに
●地球温暖化は、既定路線でとにかく進むだろう。気候変動も避けられずに進む。となると→「山岳リゾート」は影響を受ける。(100P)
影響の具体的なイメージとしては、
・気温・降雪量と時期の変化で、アクティビティの時期に影響が出る。
・降雨量の変化による地形への形態変化(流水災害)。
・気候変化による動植物の生態系の変化、景観の変化や感染症への対策の変化など。
・気候変化による作物の変化など、地域特産品の変化など。
気候変動への対抗策は難しいが、適応策として、50年後100年後に向けて。山岳リゾートをどのように気候変動に合わせて変えていくのかを真剣に考え、実行に移さなければならない。

2.

二酸化炭素削減に関心が高い観光業界
●この章では、観光業界がやっていることと、責任について論じているのだが、筆者が言うように観光業界が責任を感じているのか?!は、たぶんに疑問と思われる。
観光=旅行(ツアー)とは、「旅行者の出発地(日常生活の都市)~→乗り継ぎ行程地域(トランジット)を経由し~→目的地=山岳リゾートなど(自然の非日常)に滞在し~ →トランジットを経由し~→再び日常の都市に戻る」総体を指す。
山岳リゾートのような遠隔地を目指すことこそ、目的地にたどり着くまでの移動やトランジットの過程で、二酸化炭素を大量に排出してしまう(グレタ・トゥーンベリさんが ヨットを利用する理由)。ということを筆者は、観光業界は責任を感じている。と言うのだが、果たしてそうだろうか???!
●国連世界観光機関(UNWTO)の試算では、観光活動による二酸化炭素排出シェアは、4.95%であり、内訳は、・航空機産業 40%、自働車 32%、宿泊 21%などとなっている。

3.

日本における気候変動と観光に関する研究
●気候変動と観光の関係性を見ていくと、以下のような影響が考えられる。
≪マイナス面≫
・サンゴの白化現象
・雪不足によるスキー場の閉鎖
・流氷や樹氷などの冬の自然現象(冬の景観資源)の消滅など
≪プラス面≫
・積雪減少によるゴルフ場の通年営業など
≪間接的影響≫
・収穫可能な農産物の変化に伴う地域特産物(郷土料理やお土産)への影響
・生物相の変化による旅行先での感染症への対策(ハマダラ蚊→マラリヤ)など
に言及されているのだが、個人的な意見を言って良ければ、だいぶ矮小化されている感じがする。

4.

影響を与えるのは気候変動だけではない
●田中氏にとっての関心事は、気候変動ではなく、余暇ライフスタイルの変化そのものであることは、この章の出だしの4行を見ると解る。
「気候変動が山岳リゾートに与える影響に関する研究が少ないことには訳がある。実のところ、現在日本の山岳リゾートの行く末に 多大な影響を与える要素は、気候変動よりも、国民の余暇活動の嗜好の変化であり、人口減少なのである。」と言っている。
●日本の余暇ライフの事例を(レジャー白書で)見ると、
・日本のスキー人口は、1993年の1770万人をピークに、2012年には560万人と1/3に、同年のスノボ人口230万人を合計しても、790万人と半減以下。
・日本のゴルフ人口は、1980年代90年代の最盛期に、 1500万人だった。
2006年に1000万人を割り込み、
2012年には、790万人に減っている。
これは、ゴルフ好きの団塊世代の高齢化が影響していると考えられる。
●日本のレジャーライフは、人口減少期に入ったことと、日本人の嗜好の変化によって、大きく減少している。
日本の人口減少長期推計としては、2014年6月の「日本創成会議」人口減少問題検討分科会によると、 現在1800ある市区町村(地方自治体)のうち、2040年には896の自治体で、20~39歳女性が5割以上減り、 523自治体では、人口1万人未満になる(限界集落化)。
山岳リゾートにとって、人口減少状況は、気候変動要因よりも深刻な影響をもたらす。

5.

そもそもリゾートは日本に定着しているのか
●リゾートの概念が欧米型モデルのようであるなら、日本に定着しているとは言えない。
欧米型余暇ライフを深堀したアリストテレスの余暇の定義(104Pの表1)から見ると、日本では、リゾートの余暇ライフが定着しているとは言えない。 日本の余暇ライフの実態は、まとまった休暇を取る制度も習慣もなく、せいぜい数日程度の余暇期間にバランス悪く、パイディア的娯楽※に偏った (ワンデイ・パスポートでディズニーランドで遊ぶことか?!)ライフスタイルしかない。
※:アリストテレスの余暇の定義で「気分転換、気晴らし、娯楽など」のこと。

6.

どのようなリゾートが求められているのか
●日本でのリゾート観の変遷。リゾート観の歴史を振り返ると、
・日本では現在よりも江戸期の方が、講(お伊勢参り)や湯治旅行などにより、余暇思想が庶民の間に共有されていた。
・明治期に入ると、外国人により、軽井沢、日光、上高地などの山岳リゾートが発見され、スキーなどのスポーツも紹介されて、 西洋的なライフスタイルの過ごし方が浸透し始めた。
・昭和期(戦後高度成長期)に入ると、リゾート・ライフスタイルとは縁遠い1泊2日の職場旅行が大衆化した。 また一方で、年に2回の実家への帰省が、ある意味でリゾート余暇行動として機能していた。と考えられる。
・平成にうつると、日本はバブル期とバブル崩壊を経験し、その当時の「総合保養整備地域整備法(リゾート法)」の施行の下で、 リゾート開発の狂乱と挫折を経験した。
(例)・村おこし、町おこしと絡んだ半官半民のリゾート開発
・テーマパーク構想が乱立し、バブル崩壊によって消費者を失い数多くの計画が頓挫した。
・簡保の宿など

日本人は、高度経済成長とバブル景気に浮かれるうちに、リゾートが人間性を維持・回復するために大切な余暇空間である ことを忘れ去り、巨大な経済効果を生み出す消費の対象とみるようになった。リゾートの本来の意義を失った経済開発は、 未来へのレガシーすら残さなかった。
・今後の展望としては、バブル経済が弾けた後、エコツーリズムやグリーンツーリズムが徐々に浸透していることに、 若干の希望が見いだせる。山岳リゾートでも、新たな形態のツーリズムを取り入れて持続可能な観光を推進することが期待される。 これからは伊藤洋志が提唱するような「フルサト」を作るマルチハビテーション的な半居住的訪問という形態も取り入れるべきであろう。

7.

山岳リゾートの将来を考える際に念頭におくべきポイント
●山岳リゾートなど自然地域を活用する観光を計画するに当たっての3原則
・第1の原則は、「自然は訪れるに値する」
山岳リゾート開発では、得てして近視眼的で金銭的な採算性だけに目を奪われ、自然環境の持続性を無碍にするような行為が後を絶たない。 自然景観に違和感のあるデザインのホテル開発など。
・第2の原則は、「自然は保全しなければ壊れてしまう」
山岳リゾートでは、広大な空間と斜面を活用したアクティビティを生かした計画を推進しながら、今後の気候変動の影響も考慮して、 過度な利用を控えて持続する環境を保全する計画とすることが大切である。
(例)最近話題になっている「観光公害」に注意する。と言うことか。沖縄の「久高島」、京都の祇園、富士山、 高尾山など、観光客が集中すれば、環境破壊は止めることは難しい。 古い話を持ち出せば、かつてのアウトドアライター芦沢一洋氏(懐かしい)は、バックパッカーの思想としてこう言った。 「自分の生活に必要な物は、自分の肩に背負って、自然に入り、戻る。」当時の標語に「ゴミは持ち帰ろう。残してくるのは足跡だけ。」 と言うのがあったが、芦沢氏は、どこかの山に1週間ほどキャンプに入ったが、テン場(テントを張る場所)と水場の間に、足跡で踏み跡道ができたことを嘆いていた。
・第3の原則は、「自然は恐ろしい」
気候変動による災害のリスクは増加する。そのことを念頭に置いた計画を推進する必要がある。
(107P 表2参照)


     
1月の学習項目
○1月9日 場所:ゆいわーく茅野 101会議室
トレンドビュー
第1章 CLTは国産材料利用拡大に救世主となりうるか 
担当 吉江
第2章 震災復興と防潮堤 担当 井村j
○1月23日 場所:中央公民館いきがいサロン
第3章 森林・生物多様性と持続可能な開発目標(SDGs)交渉 担当 中野
第4章 みんなで森の再生 木の駅、森の健康診断 担当 矢崎


2020.1.9 1.23

みんなの手で森の再生―木の駅、森の健康診断―  朝日新聞編集委員会 伊藤智章
  森林環境2015 テキストP148~154    矢崎恵子さん(会員)の資料から

間伐材活用に地域通貨を絡ませる「木の駅」運動の広がりなど、「里山資本主義」同様、地域に根差しつつ、ネットなどで外の世界ともつながる、新しい地域おこしの萌芽がある。

木の駅運動

 =間伐材搬出や加工の報酬が地域通貨で支払われ、山主の意欲と地域経済活性化する仕組み。
2009年、高知県仁淀川町の取り組みをもとに、鳥取県智頭町、岐阜県恵那市などで原形ができ、24府県45の山村地域に広がった。それぞれ地域では、主産業の農林業が衰退し、人口も減少。大型店の進出で、地元の商店が閉鎖し、お年寄りらの買い物が不自由になるなどの悪循環に陥っている。
岐阜県恵那市山岡町の例:「やまおか木の駅プロジェクト」とは、山主や地元の商店主ら約30人で運営。花白温泉に間伐材や林地残材を持ち込むと、軽トラ2台分(1t当たり)の報酬が6000円の地域通貨「もり券」で受け取れる。持ち込まれた材は薪(薪づくり手間賃も「もり券」で支払われる)に加工し温泉のボイラー燃料となる。実行委員は1t当たり3000円で花白温泉に売り、差額は市の補助金で埋めている。山主にとってこれまで売り物にならなかった間伐材がカネ(もり券)になり、この地域通貨もり券で花白温泉はじめ地域の商店で買い物ができる。山主のやる気刺激と商店の売り上げ増に貢献。
担当した若者(元銀行員)はやりがいを求めこの市民プロジェクトに参加。現地現場で苦闘したり、カンパを集め先進地オーストリアで学んだりした。
恵那市の取り組みは、中東から運んだエネルギーではなく、目の前の山でとれた材料で火をおこし、地域の人たちが温まるという分かりやすいモデル。地元資源を利用した地域おこしといえる。(p.150)

森の健康診断運動

2005年、愛知県豊田市矢作川流域で始まった森林ボランティアによる「森の健康診断運動」。(矢作川流域だけで、この10年間で延べ2300人参加。この手法は40都道府県に広がっている)
2001年、農水省豊田統計情報出張所勤務だった丹羽氏が、前年に発生した東海豪雨(恵南豪雨)で大きな被害(集中豪雨による各地土砂災害:真砂土・戦後拡大造林・木材価格低迷・放置林)を受けた山主らにアンケート調査をしたところ、「山主すら山の現状を知らなかった」ことに驚く。⇒「素人山主」
そこで都市住民らによる森林ボランティアが活動することにより、山主の意欲を引き出そうと考えた。
蔵治光一郎准教授ら研究者たちに協力を仰ぎ、ボランティアを導入し矢作川流域山地の調査を行いそのデータを分析してもらい、行政や山主に生かすサイクルを構築。 この調査は2巡し終了。
2005年~2014年、矢作川流域3県7市町村を大勢の市民が、P.152の方法で調査し、植林地1ha当たり密度・断面積・樹高と直径・木と木の間隔等から林の混み具合を判断。参加者は山歩きを楽しみながら専門家から山の荒れ具合、植物の名などの解説をうける。木の駅同様、山主たちへの刺激に。
⇒2007年「豊田市森づくり条例」を制定、100年の森づくり構想を打ち出し、公的資金導入の道を開く。

流域一体 ・・・矢作川水質保全運動

*「矢作川沿岸水質保全対策協議会」―矢作川方式
農業地帯だった三河地域で戦後急速に工業化が進み河川の水質悪化が問題となり、保全運動がおこる。
1969年、開発計画は行政の認可前に土地改良区や沿川市町村でつくる「矢水協」*との協議を義務化、ゴルフ場乱開発の歯止めとなった。1990年代には矢作川漁協の反対で矢作川河口堰建設計画が中止に。
このように、山と川に市民の関心を向ける前史があって、森の検診、木の駅運動へとつながった。
流域一体の考え方は、江戸時代の方が進んでいたかもしれない。現在、木曽川は愛知県~長野県~岐阜県をまたいで流れ愛知県西部の水がめであるが、森林税の補助対象は県内に限られている。が、江戸時代は旧尾張藩は名古屋城下のみならず木曽地方も藩領とし山林を管理し、一体経営の発想があった。
森の検診も木の駅運動も、ネットで方法や成果を発表し関心を高め、人々が消滅可能性のある自治体へつながりや、やりがいを求めて足を運ぶようになった。著者はそこにかすかな可能性を感じる、という。


     
2月の学習項目
2月20日 まとめの講演会 案内はこちら


2020.2.20

学習会のまとめの講演会

2月20日 13:30~15:30
場所:ゆいわーくちの 会議室
演題:長野県環境保全研究所の出前講座>「気候変動の現状と将来予測」
講師:同研究所の浜田崇 主任研究員

参加者は24名で、幣会の会員19名(内学習会メンバー12人)と一般市民5名(内 茅野市役所 環境課から笠原氏が参加)でした。
この講演会は森林観察学習部会の学習会として、毎年度 年間学習した内容の纏めとしてこの時期に実施しているもので、今年度の学習は「異常気象の地球温暖化」を取り上げて学習してきたので、その纏めとして長野県環境保全研究所に、この問題についての長野県の現状や取り組みを含めてお話し頂くことにしました。 講演の内容はまとめて後述します。
講演は内容も広範になりましたが、気候変動の現状が少し理解でき整理できたのではないかと思います。
気候変動に伴う明るい材料等もお話し頂くことにしていましたが、時間の関係で入れられなかったとのことです。内容的には、気温や雨量の上昇で、畑作物の生育が良くなり、作付け期間も伸びていることの事例等を用意していたようです。

講演会風景

講演会風景


<講演内容>
先ず、2019年の世界に広がる異常気象の現状(欧州の熱波、異常高温や、豪州や南米、東南アジアの異常高温、豪雨等)、長野県を襲った台風19号の状況(県内の降水量は観測史上1位の記録更新)や、記録的な暖冬(最近1カ月で平年より2℃以上高い)、少雪(平年の40%がほとんど)、そして日本の近年の猛暑日数の増大や100㎜以上の降水日数が増大していると解説された。
気候とは気温や降水量等の30年間の平均的な状態を言い、気候変動とは平均的な状態が一定の方向に継続して変化したり、周囲的・規則的に変動したり、ある時点を境に平均的な状態が大きく変化したり、或いは平均値は変化しなくても短期変動の幅が増大または減少することを言う。
気候変動の中で、30年に1回以下で発生する気温や降水量の変化を異常気象と呼んでおり、近年は気温や降水についてこの異常気象が増大している。
この気候変動をもたらす主な要因には、自然起源の要因(太陽活動の変化、地球の公転軌道の変動、火山の噴火等)と人為起源の要因(化石燃料起源の温室効果ガスの増加、森林伐採や土地利用の変化、大気汚染物質の排出等)があり、近年の地球温暖化の問題はこの人為起源の要因によると言われており、世界のエネルギー構造の変化(自然エネルギーから化石燃料依存への変化で1950年頃のエネルギー流体革命以降の急激な石油利用拡大)が大きく影響している。CO2濃度は2018年には407ppm(産業革命以前には280ppm、1950年当時は310ppm、2005年で390ppm)へ急増している。

長野市では、過去100年前と比較して気温は約1.3℃上昇、真冬日は2.4日減少、年間猛暑日は約30日増加、熱帯夜は1日増加した。年間降水量や最深積雪には長期的な変化はでていないが、無降水日が30日増加している。 また県内ではリンゴの日焼け、着色不良、レタスの球内抽だい、さくらの開花日が早まるなどの影響がでてきている。
将来予測として、長野県の気温の上昇予測では、温室効果ガスを出さない努力をしっかりした場合(RCP2.6)には2050年時点で+1.9℃、2100年で+2.0℃が予測され、今のように温室効果ガスを出し続けた場合(RCP8.5)では2050年に+2.1℃、2100年には+4.7℃と予測される。また長野市では今後100年で真夏日が60日、夏日・熱帯夜が50日増加し、産業や生態系等広い分野への大きな影響と健康被害が増大するだろう。降水については滝のように降る雨の回数が増加する一方で、降水の無い日も増加するだろう。降積雪は減ると予測されるが、高い山等では降雪は増加すると思われる。リンゴへの影響として、現在は長野県全体一様に生育適地であるが、平地や盆地はより高温になり不適地域になるだろう。また、松枯れへの影響では、マツノザイセンチュウの生育域が+1℃の気温上昇で190m高度が上昇することを考慮すると、現在は標高800m位まで来ている被害地域は県全域に広がるだろう。ブナや雷鳥の生息域も大幅に狭められてしまうと予測される。

気候変動の影響が大きくなることが予測される中で、気候変動に対する緩和策として人為起源要因の削減により温室効果ガスの排出削減と吸収対策が急務であるが、これは地球全体で取り組まないと効果が出てこない。
一方最大限の緩和策でも避けられない影響を軽減する方策として、渇水対策、治水対策・洪水危機管理、熱中症予防感染症対策、農作物の高温障害対策、生態系の保全等の適応策が急務である。気候変動の影響には地域差があるので、緩和策はグローバルな対策が必要であるが、適応策はローカルな対策が必要であり、気候変動にレジリエントな地域社会の構築が不可欠になる。
自然災害、沿岸域については、ハザードマップの確認、避難経路の確認、治水安全度向上のハードの整備が必要だし、農林水産業では、高温耐性品種への変更や作付け時期の調整、果物の日焼け防止策等が必要になるだろう。 健康面では熱中症対策としてこまめな水分補給やデング熱予防として水たまりを作らない工夫等が必要になる。
水環境や水資源については節水・雨水利用の工夫、自然生態系では森林のモニタリング、野生動物の個体管理等が望まれる。

長野県では、2019年4月から「信州気候変動適応センター」を開設した。県の環境エネルギー課と環境保全研究所が共同で、基盤情報(気候変動の実態や予測情報)の整備と情報発信、適応策の推進と支援を開始している。活用をお願いいたします。

私たちは、このような活動を通じて人と森林との新たな関係を作り出し、豊かな森林を次世代にバトンタッチしたいと願っています。