H29年度 事業計画・報告

今、市民の森は!  (H29年度)


 この「今、市民の森は!」というタイトルで、事務局だより毎号に連載しています。
 本コーナーは事務局だより第2号から井村が担当し、毎回植物の異なる種を選んで計59種紹介してきました。
 今年度からは、昆虫に目を移し、森林観察学習部会の馬場さん(月例観察会のスタッフ)にバトンタッチします。
3月に発行したガイドブック2には昆虫も沢山掲載しました。合わせてご愛読ください。


2017.4.16

 4月の月例観察会は雨のため事務所での座学に変更。今年度も火曜日は鬼門か?
数日後の日曜は好天。例年よりも季節が1週間ほど遅れていますが気温が高めのせいか、水車小屋付近では成虫越冬したタテハ類が飛び回り、 ルリタテハがチェーンソー基礎講習会の参加者にまとわり付いていたと聞きました。これはルリタテハが参加者の汗に誘引されたものです。
ルリタテハは和名通り瑠璃色の帯紋が特徴で、他のタテハとの区別は一目瞭然。5月になれば食草のヤマカシュウなどの若葉に産卵、 以後2~3回世代交代し成虫で越冬します。幼虫は食草の葉の中央付近に丸い食痕を残すので発見は容易、どんな幼虫か探してみては?

ルリタテハ

ルリタテハ
 チョウ目 タテハチョウ科 ルリタテハ属
国内分布:北海道・本州・四国・九州・南西諸島


2017.5.7

 今年の春の訪れは例年より遅く昆虫たちの発生も遅れ気味だが、 5月7日薪づくり講習会の日は気温も上がり、チョウの観察ポイントの水車小屋付近では地面近くを素早く飛ぶ小さな茶色のチョウを発見。 タチイヌノフグリやスミレ類を吸蜜に来たミヤマセセリ♂です。1週後の14日は♀の最盛期でした。
 ミヤマセセリは年一化。里山の春をつげるチョウの代表の一種で、芽吹きの頃から飛び回るが小型でこげ茶色の翅がまだ緑の少ない地面と 同化して見つけにくい。この時期ほかのセセリはいないので同定は簡単、なかなか渋い通好みのチョウです。
 枯葉を巻いた巣の中で幼虫で越冬、早春に目覚めるとただちに蛹化、つづいて羽化する。食樹はコナラなどブナ科の樹木。

ミヤマセセリ

ミヤマセセリ
 チョウ目 セセリチョウ科 ミヤマセセリ属
国内分布:北海道・本州・四国・九州
国外分布:中国大陸・旧満州・アムール・朝鮮半島


2017.6.10

 遅かった春を取り戻すかのように暑い日が続いて季節も順調に進み始めた6月の下見日、頂上から北コースへ踏み込んで間もなくレンゲツツジで吸蜜するオナガアゲハに出会いました。
 林間の蝶道を飛び、好んでツツジ類やクサギの花に飛来します。また、暑い日中に山道の水溜りで吸水中の♂を、カラスアゲハ類の♂と共に見かけるチャンスも多いです。
 後翅の曲がった長い尾(尾錠突起)が特徴で近縁種(クロアゲハ)との見分けるポイントになり、また本種の生息地は山地、クロアゲハは平地と棲み分けているようです。
 オナガアゲハは当地では春夏年二化、蛹で越冬,
 主な食樹はコクサギ、他にサンショウなどミカン科。
<注>年二化:1年間に2回世代が変わる。つまり、2回成虫が見られる。

オナガアゲハ

オナガアゲハ
 チョウ目 アゲハチョウ科
国内分布:北海道・本州・四国・九州
国外分布:中国大陸・朝鮮半島


2017.7.12

 7月の月例観察会は梅雨の中休みの暑い日、駐車場や水車小 屋付近を大きなタテハチョウが力強く飛びまわっていました。 そうです!里山のシンボル国蝶オオムラサキです! 今は♂の最盛期、とまった時も翅を開いたり閉じたり落ち着かず、翅表の紫の幻光はなかなか見せません。吉田山ではいまだに樹液の酒場を見つけられず、クワガタやスズメバチと争いながらの酒盛りを観察出来ていませんが、簡易トイレでは臭いに誘引されて飛来する雄姿?に出会える確率は高そうです。 成虫は7月に発生、年1化、食樹エゾエノキ根際落葉裏で幼虫越冬する。エゾエノキは他にもゴマダラチョウ・ヒオドシチョウ・テングチョウなども食樹としている都合の良い樹だ。
<注>年1化:1年間に1回世代が変わる。この時期にだけ成虫が見られる。

オオムラサキ
簡易トイレ換気口に飛来

オオムラサキ♂  開張9㎝
 チョウ目 タテハチョウ科 オオムラサキ属
国内分布:北海道・本州・四国・九州
国外分布:中国大陸・旧満州・朝鮮半島・台湾(高地)


2017.8.4

 今年の夏は梅雨明け後の天候が安定せず、8月の月例観察会も雨女の怨念で中止に。それでも晴れ間が出れば例年通り、吉田山では色々なチョウが飛び出して来ます。
林道をかなりの速さで横切る大きな黒い影はミヤマカラスアゲハ。♂は湿地で吸水中、♀はクサギの花などで吸蜜中が観察チャンスです。
 翅表の金緑色の帯班紋が印象的で、日本産美蝶総選挙なら1、2位を争う人気者。山地に多く、近縁種カラスアゲハは低山地に多い。両種の見分けは後翅裏に白帯があれば本種。成虫は5・6月春型8・9月夏型の年2化、蛹で越冬。
 食樹はキハダ(ミカン科)。内皮(黄色)は漢方薬(胃)や黄色染料に利用されてきたが、幹も広葉樹薪に活用可。庭に植栽すれば♀の産卵も観察出来るでしょう。
<注>年2化:1年間に2回世代が変わる。

ミヤマカラスアゲハ
吸水中の♂2016,7,19

ミヤマカラスアゲハ  開張 春型7㎝ 夏型10.5㎝
 チョウ目 アゲハチョウ科 アゲハチョウ属
国内分布:北海道・本州・四国・九州(南限屋久島)
国外分布:ミャンマー北部・中国大陸・アムール・サハリン・朝鮮半島・台湾


2017.9.8

 9月の月例観察会はまたまた雨女に祟られ延期に。翌週は絶好の観察日和となり、ミンミンゼミが夏の終わりを鳴き惜しむ林道沿いでは、 ジャノメチョウ・クロヒカゲ・ヒメジャノメ・ミドリヒョウモン・メスグロヒョウモン・イチモンジセセリなどのチョウ類に出会え、山の神近くのコナラの樹液パブでの6・7頭のコクワガタの饗宴も観察出来ました。
 大型ヒョウモン類の翅表の班紋は大阪のオバちゃんみたいなヒョウ柄で、どれもよく似ていて紛らわしいが、ミドリヒョウモンは後翅裏が薄緑色の縞状紋であることで判別可能。
 発生経過は年1化、6・7月頃成虫が出現、真夏に夏眠、秋口になって活動を再開します。母チョウは食草(主にタチツボスミレ)がある付近の枯れ枝・石・樹幹などに乱雑に産卵すると言われていますが、 当地でも赤松の樹皮の隙間に産卵ポーズを取るシーンに数回遭遇しました。秋に産卵、孵化した幼虫は摂食せずに越冬、翌春になって摂食を始めます。
 庭にスミレ類を植えておけば、数種類のヒョウモンチョウが飛来しますよ!
<注>年1化:1年間に1回世代が変わる。

ミヤマカラスアゲハ

ミドリヒョウモン ♀  開張6.5㎝
 チョウ目 タテハチョウ科 ミドリヒョウモン属
国内分布:北海道・本州・四国・九州・対馬
国外分布:アルジェリア・旧北区・台湾(高地)


2017.10.10

 10月に入ると吉田山のムシ達の姿もめっきり少なくなり、 ボロボロのヒョウモン類や越冬前のタテハ類、池の周りのオオルリボシヤンマ達がかろうじて見られる中、 注意深く散策していけばノコンギクなどで吸蜜中の尾状突起をもつ小さなウラナミシジミにも出会えます。 シジミチョウは皆よく似ていて紛らわしいが、九州以北に分布するシジミチョウで翅裏が波のような班紋は本種のみなので、 判別はし易いほうです。
発生経過は多化性、越冬態は卵~成虫と無定型で、暖地で越冬し、翌春世代を繰り返しながら寒冷地に至るが、 霜が降りる地では死滅するので、当地での発生時期は夏から秋までです。しかし、稀に暖地に帰る変わり者がいるかもしれない(仮説)・・・
食草はマメ科の栽培種・野生種共に花・若実で、マメ類の害虫?とされ迫害されますが、みなさんの菜園ではお手柔らかに願います。
<注>多化性:1年間に3回以上世代が変わる性質。

ウラナミシジミ

ウラナミシジミ  開張3㎝
 チョウ目 シジミチョウ科 ヒメシジミ亜科
国内分布:北海道・本州・四国・九州・南西諸島
国外分布:アフリカ北部・ヨーロッパ中南部・アジア南部・オセアニア


2017.11.21

 2017年度最後の11月観察会、晩秋の森はムシ達の気配も微かですが、オオムラサキの仲間たちの消息を訪ねる散策も又楽しい。今年も食樹エゾエノキ根際の落葉裏で越冬態勢のオオムラサキ幼虫を無事確認できました。
 ゴマダラチョウの越冬幼虫はこの森では少数派(山地よりも平地のチョウ)ですが、きっと周りの落葉裏で見つけられるでしょう。
 また、コムラサキ越冬幼虫は、慣れないとなかなか見つけられませんが、食樹のヤナギ類の樹皮の襞(ひだ)に潜んで越冬します。
 因みに、近年湘南で生息が確認され分布拡大中の近縁種アカボシゴマダラ(中国産の訪蝶)を今年9月に甲府盆地南で見かけたが、温暖化を背に諏訪地方にも侵入して来るか…。幼虫は食樹エノキの小枝の分岐部で越冬します。
 オオムラサキの仲間は、憎いくらいに棲み分けています。

オオムラサキ

アカボシゴマダラ

チョウ目 タテハチョウ科
オオムラサキ越冬幼虫

アカボシゴマダラ成虫
2017.09.25 山梨県中央市豊富


2017.12.22

今、豊平の薪棚では①!

 猟期に入った吉田山での生き物観察が出来ない今月は、会員諸兄自慢の薪棚を覗いてみよう。
 薪の隙間で越冬する昆虫で常連なのがオツネントンボ、茶系のカメムシやサシガメ類、テントウムシ類、スズメバチ類、ハエトリグモや稀にタテハチョウ類など、 薪の材中ではカミキリムシ類の幼虫(テッポウムシと呼ばれる)などですが、標高1100m豊平の我が薪棚では今冬なぜか?オツネントンボがほとんど見られず、 かわりにクサギカメムシが異常に多い・・と言う訳で今回は嫌いなムシ代表カメムシ編です。
 カメムシ目の仲間は非常に種類が多くセミからタガメまで形態も様々、カメムシ科だけでも80種、食生は肉食・ベジタリアンと幅広く、孵化時の卵の脱出孔の 開孔器など興味深いが、観察会では6種しか観察していないほど何と人気のないムシか! 臭いムシの代名詞にされる根拠は、危険を察知すると足付け根の臭腺から トランス-2-ヘキセナールなどのアルデヒド(パクチ―などにも含まれる臭いの素)を分泌するからで、幼虫・成虫共に吸実性で作物の大害虫扱いされている クサギカメムシの大発生は、菜園主のあなたにとって来年はカメムシ大戦の年になりそうです。   

薪だなの昆虫

クサギカメムシ 体長15mm
  カメムシ目カメムシ科
クロスズメバチ 越冬女王蜂体長16mm
  膜翅目スズメバチ科
不明種幼虫 体長16mm(材はコナラ)
  甲虫目カミキリムシ科


2018.1.18

今、豊平の薪棚では②!

 今冬は予報通り寒くて、薪棚はどんどん空いて行きますが、こぼれ落ちる虫は相も変わらずクサギカメムシの山、新顔も現れないので少数派のクロスズメバチを取り上げてみます。

 クロスズメバチの生態の特徴は、ミツバチ科・スズメバチ科の多くの種に共通の、1匹の女王と多数の働き蜂と雄とで社会を構成する事です。秋に羽化する新女王候補達は、巣立ちし交尾後、朽木や薪棚で越冬し、翌春単独で土中に自らの新女王国を創り始める。産卵を始めてからは子育て・狩りに八面六臂の大活躍、働き蜂が羽化してからは産卵(受精卵→餌の違いで働き蜂か翌年女王に、未受精卵→雄になる)に専念するが、秋が来れば短い一生を終える。
 幼虫の餌は働き蜂が狩ってきた小昆虫や動物の死骸の肉団子で、成虫は終齢幼虫の唾液腺分泌液を栄養分として摂取する。
 農作物の害虫には恐ろしい敵だが、対人攻撃性は弱いという。長野を中心に静岡・山梨・栃木や遠く岡山・宮崎などの山間地には、昔からハチ類の幼虫・蛹食の文化が生き残り、創り始めの巣を女王ごと採取・肥育する好事家もいるらしく、通販で終齢幼虫の分泌液のサプリメントまで販売されている・・
 クロスズメバチ越冬女王を多数確保すれば、飼育用需要が十分見込め、黒いダイヤに化ける日も近い!

薪だなの昆虫

クロスズメバチ 越冬女王 体長16mm
  膜翅目スズメバチ科クロスズメバチ属


2018.2.21

今、豊平の薪棚では③!

 今月も薪棚観察会、オツネントンボを取り上げてみます。

 ストーブを焚く季節には、都会からの来訪者に“冬なのにトンボが!”と驚かれる事がよくありますが、正体は成虫で越年するが故に「オツネントンボ」と名付けられたイトトンボの仲間です。
 今年は珍しく少なかったけど、他の昆虫達にも数年ごとに発生個体数の波があります。要因は諸説あるものの、気候・餌や天敵等の重層した因果関係によるものか?
 薪棚の観察例を素直に表現すれば、越冬隠れ家を大発生のカメムシ達に横取りされた事が原因・・単純説もあり得ますね。
 信州で越冬するトンボは本種とホソミオツネントンボの2種(南西日本にはホソミイトトンボも生息)。
 初夏に成虫が出現、未成熟のまま越年、翌春成熟・交尾・産卵、一生を終えます。年1化で不完全変態。本種は越冬後も茶色のままで、閉じた前後翅の縁紋がずれるが、ホソミオツネンは青く変色し、縁紋は重なることで見分けられます。

薪だなの昆虫

オツネントンボ ♂ 体長35mm
 蜻蛉目アオイトトンボ科オツネントンボ属
 国内分布:北海道・本州・四国・九州北部
 国外分布:ユーラシア大陸中北部に広く分布


2018.3.21

今、八ヶ岳山麓では!

 森が芽吹き始める前に、諸兄が今冬伐採した広葉樹の枝先を緻密に捜索すれば、白い小さな宝石を見出すことが出来ます。それは樹上に生息する“ゼフィルス”達の越冬卵です。
 ケルト民話に、ニレの梢を飛び回る小さな妖精の話があると聞いたことがあります。シジミチョウの仲間にも同じ様に雑木林の梢付近を飛翔するミドリシジミの一群(約180種、内日本産25種)がいて、それらはケルト民話の連想からか、 ギリシャ神話の西風の精ゼフィロスを語源とする“ゼフィルス”と愛称され、愛好家も多い蝶です。ミドリシジミの仲間は中国雲南・四川方面を故郷とする東アジアのチョウで、翅表が金緑色に輝くステキなシジミ達です。市民の森月例観察会で、 ゼフィルスの仲間はまだ4種しか観察出来ていませんが、彼らは早朝や黄昏時に活動するため、いつも擦れ違い・・
 幼虫は種により好みの樹の葉(カシ・ブナ・ナラ・サクラ・ハンノキ・トネリコ・クルミなど)を食し、生活史は各種共通で年一化、食樹の冬芽基部や小枝に産み付けられた卵で越冬、6・7月頃に羽化・出現し、♀は晩秋まで産卵し、次代へ繋ぎます。
 冬期に森林整備やホダ木・薪材として大量の広葉樹が伐採される陰で、無数の“ゼフィルス”越冬卵が無駄死にして行く現状を憂えるのであれば、地域の子供達と一緒に、小枝から採卵・飼育して山に帰す…的な活動が有意義に見える時代かもしれない。
  <注>年一化:1年間に1回世代が変わる。


コナラ冬眠芽基部に産卵されたアイノミドリ卵
薪だなの昆虫
(原村深山付近2018.02.19) 径1mm

チョウ目シジミチョウ科ミドリシジミ属
アイノミドリシジミ ♂ 体長33mm
薪だなの昆虫
山梨県塩山市採卵・飼育  1982.05羽化

 国内分布:北海道・本州・四国・九州
 国外分布:アムール・旧満州・朝鮮半島

私たちは、このような活動を通じて人と森林との新たな関係を作り出し、豊かな森林を次世代にバトンタッチしたいと願っています。